介護労働の現場から〈08〉人権無視して当然

介護労働の現場から〈08〉
2013年12月3日
人権無視して当然

二人は、もう会社に退職を申し出たということで、ファミレスでもう3時間も粘り、ドリンクバーにたまに立つ以外は、しゃべる、喋る。私は、大きな施設のやり方が面白いので、もっぱら聞き役。

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「たしかに、介護職長い人はすごいスキルよね。おむつ替えだって、目にも止まらない速さでパッパッ、おしりは3回だけ拭いてOK。ベッドの上で利用者をさっさと転がしてズボンはかせて、おむつ替え一丁上がり。終わったら得意げな顔して新人を見る。なんか、全国おむつ替えコンテストでもやればいいのに」
「食事介助だって高速、一人2分。利用者にスプーンをつっこんだと思うと、上下に動かして唇にはみ出たのをティッシュで拭いて終わり。ごはんもおかずも全部混ぜてしまうし、口開けない利用者は、鼻つまむと口があく」
「毎日同じスケジュールだから、利用者は条件反射だけで生きている感じ。意思もなく、何も感じないで、ベッド、食堂、トイレ、ふろ…を移動」
「それも、移動の途中でPHSコールがあると、入居者はそこらあたりにほったらかされて、じっとしてる。待っているという感覚もないんだろうね」
「入居して1週間もたてば目がうつろになるよね。職員は忙しさで殺気立ってるし、たまに作り笑いと高い猫実声で挨拶されてもね。返す気にもなれないのは当然」
「すると、『○○さん、お返事は? おはようは?』」
「私は最近、問題老人が好きになっちゃった。『殺せー』『死にたい』という利用者には、がんばって生きろと励ましたくなる」
「何言っても、職員は無視するよね。若い男の職員は陰で『うるせぇんだよ。おまえらを生かして、俺らは奴隷だよ』って言ってた」
「介護職を続けるということは、完全にオートマティックな介護ロボットになるということだね。少しでも人間性が残っていると悩むね。それなら、いっそロボット化すれば?」
「介護機械や器具は高いんだよ。そんな設備投資より使い捨て労働者のほうが安上がり」
「なんか、介護の仕事って心が折れてしまうね。自分の人権も保障されない労働者が、利用者の人権も無視して当然みたいになっている。そんな荒んだところに身を置いたら人生終わり。」
「お互い、すごい現場見ちゃったね。月14万じゃ、パートでダブルワークして、社会保険入らないほうが暮らしていけるね。」

彼女たちも、重労働を覚悟して就職し、施設介護の現実に苦しんだのだ。それをやっと吐き出して、再出発しようとしている。

私は、どうするか? 「私は、もう少しやってみるわ。小規模な施設だし、どうにかやってみるわ。」と答えた。

「あらかんちゃんは、こんなこと見過ごせないでしょ。」
その通り。介護保険下の労働現場は、まるで蟹工船か、レ・ミゼラブルの世界だ。自分だけ逃げ出すと、多分後悔する。(あらかん)
(ちば合同労組ニュース40号から)