実践的に考える労働法 就業規則万能化との闘い

実践的に考える職場と労働法 制度・政策

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就業規則の万能化との闘い

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(写真 CTSの就業規則改悪に反対する動労千葉)

近年、就業規則の存在が前面に出てきています。就業規則の万能化の動きです。
建前かも知れませんが〈労働者保護〉という労働法の基本線から考えたとき、労働者の同意もないまま使用者側が就業規則を変更することで一方的に労働条件を変更する権限がどこにあるのか、という根本的疑問がわいてきます。
労働基準法は、就業規則作成の義務(89条)や作成手続き(90条)を定めていますが、読めば分かる通り、たんなる手続き規定に過ぎません。就業規則の効力は労使の鋭い争点であり、判決や学説も百家争鳴でした。
ところが07年に制定された労働契約法に「労働契約の内容は就業規則で定める労働条件とする」と明記されました。
さらには就業規則による労働条件の不利益変更について従来の判例は「高度の必要性を要する」とされてきましたが、労働契約法では「合理性」にトーンダウンしています。
つまり、就業規則が合理的な内容でそれを周知すれば、労使で合意した労働契約となるという理屈です。

世界中で闘い

就業規則(労働契約法)との闘いは、労働運動にとって大きなテーマです。
韓国やフランスでも就業規則をより上位に置く動きが強まり、就業規則による労働条件変更を制度化しようとしています。
韓国では、就業規則による不利益変更を大幅に緩和し、勤務成績不振の労働者を簡単に普通解雇できるようにしようとしています。フランスでも、整理解雇の緩和や労働時間の延長が、就業規則を労働協約の上位に置く形で制度化されようとしています。
韓国やフランスの労働組合は激しいゼネストを展開して闘っています。
聞くところによると、日本では、近年の弁護士激増政策で弁護士があふれ、従来は不人気だった労働法を専門にする若手弁護士が増えているそうです。こうした弁護士が最初に学習するのが労働契約法なのだそう。労働組合法や労働基準法を武器にした昔の労働弁護士とは少々趣が異なるようです。

闘いの第一歩

いずれにせよ闘いの手掛かりをつかむために自分の職場の就業規則を入手することは必須です。まずは徹底研究が必要です。

※作成・変更、届出

常時10人以上の労働者を使用する事業所では就業規則の作成義務があります。過半数組合か過半数代表者の意見書を添付して労働基準監督署に届け出る必要もあります。
労基署への届出がなされているかどうか、過半数代表者の意見書が添付されているかどうか大半の労基署は見せてくれないようです。
しかし労基法105条の2は「厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、この法律の目的を達成するために、労働者及び使用者に対して資料の提供その他必要な援助をしなければならない」とあります。
※周知義務
会社側は従来、就業規則の周知には消極的で懲戒処分などに際していきなり持ち出すケースが多かったのですが、就業規則の万能化の動きに伴い積極的に周知する会社も増えています。裁判所も周知していればOKという方向に誘導している印象です。周知されていないのはNGです。

※記載事項

必要記載事項は、「始業及び終業の時刻」「休憩時間」「休暇」「賃金」「退職に関する事項」など。制度があれば必ず記載(相対的必要記載事項)は、「退職金」「安全衛生」「表彰」「制裁」など。
賃金や退職金について別に規則を定めることはOKですが、賃金は絶対的必要記載事項であり、賃金規定は就業規則の一部です。パートや契約社員も対象であり、パートなどの就業規則がなければ一般就業規則がそのまま適用されます。
※労働者の意見聴取義務
使用者は、就業規則の作成・変更を届け出る際には、労働組合または労働者代表の意見書を添付しなければなりません。ところが、この意見書は使用者の一方的な制定権を前提にして単に意見を述べる権利にすぎない扱いです。
とはいえ使用者の一方的裁量が認められるわけではないので、不利益変更に対し反対意見を表明するのではなく意見表明そのものを拒否することは有効な戦術です。さらに労働組合との交渉の状況は就業規則の合理性を判断する重要な要素にもなります。

※効力

労働契約法9条は、原則として就業規則の変更で労働条件の不利益変更はできないとしています。不利益変更でもそれに同意する労働者については変更OKで、反対の労働者は、〝合理性〟の有無が問題になります。合理性が認められなければ、従前の労働条件が効力を持続します。

ちば合同労組ニュース 第75号(2016年10月1日発行)より