実践的に考える職場と労働法 健康診断の実施

実践的に考える職場と労働法 連載・職場と労働法

実践的に考える職場と労働法

事業者による健康診断の実施

職場環境改善の措置を講じさせる

 労働者の健康管理のための重要な手段として健康診断があります。健康診断は個々の労働者の健康状態を把握するために必要なだけでなく、労働者の健康状態から作業環境管理や作業管理の問題点を発見し、改善を図るためにも必要です。
 労働安全衛生法は事業者に各種の健康診断の実施を義務づけています。
①雇入れ時健康診断
②定期健康診断
③特定業務従事者の健康診断
④海外派遣労働者の健康診断
⑤給食従業員の検便
 ①雇入れ時健康診断は、常時使用する労働者を雇い入れる時に事業主に実施が義務づけられています。ちなみに「採用選考時の健康診断」ではありません。雇入れ時健診は、労働者を雇い入れた際における適正配置や入職後の健康管理のためであって、応募者の採否を決定するために実施されるものではありません。
 ②定期健康診断の対象は常時使用する労働者となっています。パートなど短時間労働者も1年以上働く見通しで所定労働時間の4分の3以上であれは一般検診が必要です。
 所定時間の2分の1以上働く労働者については実施が望ましいとの通達もあります。
 定期検診は、1年以内ごとに1回、定期に一定の項目について医師による健康診断を行うものです。有毒ガスや粉じんなどを発する場所での業務、月4回以上の夜勤に従事する労働者については特定業務従事者として6か月に1回の定期検診が義務づけられています。

特殊健康診断

 一定の有害業務に従事する労働者については、一般検診に加えて特殊健康診断の実施が義務づけられています。
 放射線業務などの有害業務に従事する労働者は、雇入れ時、配置換えの際、一定期間以内ごとに、定期に、それぞれの業務に定められた特別の項目について医師による健康診断が必要です。鉛中毒とか石綿による肺がんなどターゲットを定めた診断です。
 有害業務に起因する疾病は、発症までの潜伏期間が長いものあるので、このような業務に従事した労働者は、従事しなくなった後においても疾病の早期発見を図る必要があるので、事業者に対して有害業務から他の業務への配置換えの後も定期的に特定の項目について健康診断を義務づけています。
 さらに退職や倒産による労働者の離職後は、健康管理手帳によって、政府の費用によって定期に健康診断を行う仕組みになっています。

必要措置の実施

 労働安全衛生法は、健康診断の実施を事業者に義務づけており、労働者にも受診義務を規定しています。もっとも労働者にも医師選択の自由があるので、事業者が指定した医師による健康診断を希望しない場合は、他の医師による診断結果を事業者に提出しても良いことになっています。
 また深夜業に従事する労働者については、健康に不安を感じ、次の健康診断を待てない場合には自ら健診を受診して、その結果を事業に提出できるとする規定があります。事業者は、診断の結果に基づいて医師等からの意見聴取などの措置が必要となります。
 健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者については、事業者は、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師・歯科医師の意見を聴かねばならず、その意見を勘案し、当該労働者の就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの措置、作業環境測定の実施などの措置を講じなければなりません。
 事業者は、健康診断を受けた労働者に対して、その結果の通知が義務づけられています。特に健康の保持に努める必要があると認める労働者には、医師または保健師による保健指導を行うように努めなければなりません。
 定期健診については、健康診断結果報告書を労働基準監督署に提出しなけれなりません。常時50人以上の労働者を使用する事業者、特殊検診に係る事業者には提出が義務づけられています。報告書には産業医の署名または記名押印が必要です。

費用は会社負担

 健康診断の費用については、法で事業者に実施の義務を課す以上、当然、事業者が負担すべきものです。
 検診に要した時間についての賃金の支払いは、当然必要だと思いますが、通達では一般検診は一般的な健康の確保のためであり業務遂行との関連において行われるものではないので、事業主の負担が望ましいとされています。
 特殊検診は、事業の遂行にからんで実施されなければならず、当然、所定労働時間内に行われるのが原則であり、時間外に行われた場合には割増賃金も必要です。
ちば合同労組ニュース 第82号 2017年05月1日発行より