書評 『雇用身分社会』(森岡孝二著 岩波文庫)

本の紹介

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論争招く〈身分〉に込めた筆者の真意は

「正社員が安定した雇用で一番安定した働き方という考え方は、二十年後にはきっと非常識になっているのかもしれない。フリーターの存在は時代の先を行っている」
「正社員でいるとリストラや定年がある。フリーターのような立場なら本当の意味で一生涯の終身雇用が可能だ。だから今は不安定といわれているフリーターが安定した働き方になる」(『日経新聞』15年10月21日付)

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フリーターが安定?

この信じられない内容は、日本の財界が目指す労働者像を示している。
昨年末、非正規雇用がついに40%をこえた。数字だけではつかめない、リアルな雇用情勢をつかむうえで、本書はいくつもの示唆をあたえている。
格差社会の行き着いた先として、筆者は〈雇用身分社会〉と呼んでいる。これは、論争を招く規定であり、正確な言葉ではないかもしれない。ただ、本書はたくさんの資料からこの真意を導き出す。
その言葉を発する根源は、「女工哀史」の世界、つまり日本の戦前の資本主義の勃興期に由来しているという。戦前では農村にいる女性が、「募集人」と呼ばれる仲介業者によって人買(ひとかい)のようにさらわれたり、甘言でだまされ、24時間拘束され、強労働を強いられていた。
現在でいえば、派遣会社にあたる。人材派遣会社は、派遣業はもちろん、「再就職プログラム」や「追い出し部屋」などのより〝洗練された〟ビジネスにまで行いきついている。
安倍首相のブレーン・竹中平蔵はパソナという派遣会社のトップだ。彼らは戦後のいわゆる「終身雇用」「年功序列型賃金」や憲法・労働法を軸とした社会こそ異例だと主張している。
いま、「戦前回帰」という単純な構造ではないかもしれない。しかし、現在、安倍政権が募らせる戦争衝動と派遣法改悪を頂点とする雇用破壊・貧困化は一つのものだ。
「一億総活躍社会」と安倍首相は言うが、少し前に「世界で一番ビジネスのしやすい国」と言った安倍の本音に真実があるだろう。
「出口の見えない社会」と言われるが、人間らしく生きられる社会をめざし、労働組合が力をもって動き出すときだ。(K)
ちば合同労組ニュース 第68号(2016年3月1日発行)より