書評『新自由主義の本質とその導入・展開』

本の紹介

『新自由主義の本質とその導入・展開』

鎌倉孝夫著(発行 労働者学習センター)

 動労千葉の労働者学習センターのブックレットの新刊が出ました。労働学校の講師もやっておられる鎌倉孝夫さん(埼玉大学名誉教授)のお話をまとめたものです。組合員のみなさんもぜひ一読をお勧めします。
本書は2012年7月、8月に開催された「新自由主義と闘う連続シンポジウム」で行われた鎌倉孝夫先生の問題提起と質疑を収録したものです。
現在では、堤未果氏やナオミ・クライン、ハーヴェイなどの論客によって「新自由主義」という言葉が社会的に認知されてきています。
しかし、この「新自由主義」という言葉ひとつとっても、さまざまな論客の立場によって内容には大きな違いがあります。
新自由主義の導入は、1990年代の橋下6大改革や2000年代の「小泉構造改革」「郵政民営化」のあたりからという論調が多い中で、鎌倉先生は、先んじて25年前に「国鉄・分割民営化は新自由主義の壮大な実験場になっている」と鋭く批判したそうです。
それは鎌倉先生が、労働者の立場に立ち、社会主義の実現を現実の課題として論陣をふるわれてきたからだと思います。
鎌倉先生の指摘は本当に鋭い。本書は「新自由主義のとらえ方の基本は、資本の本質がズバリそのまま発揮されていること」と説きます。
新自由主義とはまさに、金儲けが第一という資本の本質そのものです。労働者が生きていくための賃金をギリギリ最低限に切り下げ、労働基準法などの法的規制を「雇用特区」の導入を契機にとっぱらおうとしています。
新自由主義の最先端をいっているアメリカでは、刑務所が民営化され、一大ビジネスにされ、デトロイトなどの大都市が破産し、大資本によって安く買いたたかれています。
この新自由主義とどう対抗していくのか? 本書は“新自由主義の変革は労働者の組織的実践によってのみ実現する――「抵抗と創造」”だと結論づけています。
労働相談などで合同労組の門をたたく労働者から「職場の労働者たちは権利意識がない。皆あきらめている」という“嘆き”に近い声をよく聞きます。
それほどまでに、「自己責任」という考え方や絶望感が広がっていると感じます。なぜこうなっているのかという社会の根本的現実をもう一歩踏み込んで考えていくうえで、ヒントを与えてくれるものが本書であると思います。
労働学校の講師陣との議論も示唆に富み、刺激的な内容になっています。価格は500円。DC会館内、労働者学習センター・労働学校事務局で取り扱っています。(組合員K)