『私たちが見えますか―弘益大清掃・警備労働者の物語』

『私たちが見えますか――弘益(ホンイク)大清掃・警備労働者の物語』

この本は2011年1月3日から49日間にわたって籠城闘争を闘い抜き、原職復帰を頂点に団体協約を締結し、賃金・労働条件の改善をかちとった弘益大学の清掃。警備の労働者の記録です。
そもそも人びとはその人たちを見ようとはしませんでした。男子トイレに女性労働者が入ってきても平然と用をすませる。「ああ、あの人たちの目には私が見えていないんだ」とくやしい思いをこらえて生きてきた労働者が労働組合をつくり、闘いを通して人間となり、堂々とした労働者になったのです。
2011年、厳しい寒さの中、韓国社会を熱くした彼らの闘いは、労働者はもちろん芸能人・宗教人・学生・一般市民が参加する社会連帯・地域ぐるみの決起をつくりだし勝利しました。
月給75万ウォン(約5万円)に1日の食事代300ウォン(約20円)など劣悪な労働条件もさることながら、彼らが労働組合に加入して闘ったのは〈蔑視されるのは許せない〉ということにあります。
彼らの闘いを勇気づけたのは、公共労組ソウル京仁公共サービス支部大学分会の戦略的組織化事業にありました。〈非正規職労働者が闘争で勝つためには業種を超えて地域で団結しなければ〉と2007年に旗揚げし、4年後に3倍の1800人を組織化しました。
労働者への教育だけでなく集団交渉や共同闘争も展開し、労働者と組合指導者の関係は一方通行ではなく、労働者の力を引き出すことに力が注がれていることに感動しました。
彼らには休憩する場所もなく、食べ物のにおいや火災の危険を理由に「冷や飯」を食べなければならなりません。そんな労働現場に「あったかご飯一食」運動のキャンペーンが世論づくりに貢献しました。
こうして弘益大学で2010年12月2日、文献館(総長室のある所)前で労働組合の結成式が堂々と行われます。これでさらに多くの組合員を獲得します。だが労働組合に対する大学当局のアレルギー反応は想像を超えまったく「耳も貸しませんでした」。
そして警備や清掃を請け負う会社が代わっても労働者がそのまま働いてきた慣行を踏みにじり、大学側は最低賃金にも満たない人件費をもとに請負会社が飲めない契約延長を出します。そして翌年2011年1月2日、何も知らないで働きに出てきた労働者に突然の解雇通知。
闘う中で組合員・労働組合は今まで経験したことのない世界を見みした。組合員はどう変化したのでしょうか。
まず自らの存在に気が付きました。資本と労働者の関係、非正規職労働者として学校請負会社・労働者間の関係を知りました。何よりも間接雇用の〝鎖〟を知り、労働組合を通じた集団交渉について考えまいたた。酒飲みの話題として政治問題をとらえるのではなく、まさに自分が解決するべきだと感じたのです。
こうして労働者たちは隣の人たちを堂々と説得できるようになったのです。
労働の〝価値〟に対する考え方も変わりました。
「なによ、『おばさん』じゃなくて名前で呼べばいいでしょ」
管理者に抗議するようになった組合員をみて分会長は「ああ、そうだ。これが私たちの力だ」と感じます。
彼らの闘いがテレビで報じられると「うちの会社に来ればもっと楽で賃金のいい仕事を提供する」という申し出を受ける。組合員は心が揺れたが、今回の闘争で教わった歌が浮かんだ。
「揺らいではならない。バラバラになったら死ぬ――私なんか小さな力でも、この労働組合が一つに固まるときに力が湧くのであって、私が出ていったらだめだ。自分だけ楽に暮らそうなんて、そんなんことはできない」
こうして彼らは勝利を手にしました。韓国・民主労総の労働者はこう闘ってきました。ぜひ読んでみてください。(T)

(あらすじ)
『私たちが見えますか――弘益大清掃・警備労働者の物語』
イ・スンウォン、チョン・ギョンウォン著
労働者学習センター発行
韓国の大学で清掃と警備の仕事を担う非正規職請負労働者が、2011年1月3日から2月20日まで49日間にわたってろう城闘争を展開し、原職復帰と団体協約締結、賃金および労働条件の改善を勝ち取った。この闘争の勝利の教訓、闘いの限界、今後の課題などを生き生きと記録した本。
「人々はその人たちを見ようとしなかった。男子トイレに女性労働者が入ってきても、あわてる者は誰もおらず、平然と用を済ませる。講義の最中でも会議中でも、その人たちが働いている姿に気を留める者はおらず、なにごともないようにそれぞれのやっていることを続けた。
『ああ、あの人たちの目には私が見えていないんだ…』こんなふうに幽霊として生きてきた人々が、労働組合をつくり、闘いを通して人間となり、堂々たる労働者となった」(冒頭部分より)