連載・介護労働の現場から〈働き方編10〉

連載・介護労働の現場から〈働き方編10〉

介護は専門職

*偏見と蔑視に満ちた仕事

 介護は、以前は家族の役割であった。子どもを育て、お年寄りの世話をするのは、家族の無償労働であり、主に女が担ってきた。
 2000年から介護は措置ではなく、保険制度による国との「契約」となり、介護という仕事も、労働者としての対価が与えられなければならなかった。
 しかし、訪問介護にしろ、施設介護にしろ、女なら誰でもできる仕事としていまだに過小評価され、買いたたかれている。誰に?
 経営者に、利用者に、その家族に、そして何よりも国から買いたたかれている。
 やってみればわかるが、介護という職業は単にお世話をすることではない。食事、排泄、入浴などを安心、安全に介助する肉体労働、高齢者一人ひとりの身体状況や精神状態に関する多分野の知識と、洞察力や判断力、想像性、推進力……それらをフル動員する頭脳労働。そして、自分の感情をコントロールし、気遣い、心遣いをする感情労働。相手の立場で共感する能力、家事の知識も必要だ。その上で、偉そうな素振りはなく、親しみやすさがにじみ出ているキャラが身についている。

*PDCA

 まったくもって人間力が必要なクリエイティブな仕事で、それが介護というケア労働の醍醐味。偏見・蔑視と低賃金、過重労働のなかで、介護労働者を支えているのは、仕事に対する専門職としての誇りだ。
 今の介護労働の現場は、人権無視は日常茶飯事で、普通に働いていたら辞めて当然の職種だ。
 介護の仕事が好きになり、介護職を続けたければ、専門職として研鑽を積むしかない。職場の内部、外部研修がない場合、自腹で外部研修に参加するか、ネットや書籍で学ぶことになる。
 そんなにまでして知識を蓄えるのは、不確かな知識では家族や医務やケアマネを説得できない、つまり高齢者を支えることができないからだ。待遇改善を要求するにも、バックボーンは専門職としての矜持だ。
 介護職は専門職。専門職としての誇りをもって働こう。管理経営の素人の輩からの押し付けには怯むことはない。どんどん現場で企画し、実行し、改善し、突き進もう。ケアマネや医務を巻き込めば、管理職は「勝手にやるな」とは言いにくい。
 クレームには「PDCA(Plan Do Check Action)やってんだから」と言い返せばいい。管理職は横文字や生産管理用語には弱い。管理職を煙に巻いてるスキに、ケアのやり方から働き方まで労働者で変革していく。

*「たかが…」からの離脱

 かつて公共部門の民営化で多くの現業部門、たとえば保育士、栄養士、司書…そのほかの技能職が非正規化されたときに、「たかが子守り」「たかが給食のおばさん」「たかが本貸し」などと専門職を蔑み、行革を推進したことを忘れない。「たかが…」なんて言わせない。専門職の誇りをもって働こう。(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第75号 2017年05月1日発行より

連載・介護労働の現場から〈働き方編9〉サービス残業しない方法

連載・介護労働の現場から〈働き方編9〉

サービス残業しない方法

 介護業界は、休憩取れない、残業代が支払われないという労基法違反が横行している。
 人手不足のため、目いっぱいの過重労働でも時間内に仕事がこなせない。「しかたない」「利用者のために」と改善をあきらめている労働者こそが、サービス残業を横行させている根本原因。
 辞めて転職しても、介護業界はどこもサービス残業のオンパレード、そもそも国の人員配置基準が少なすぎるから、転職は解決にならない。地に足をつけて、いまの勤務先でやれることを戦略的にシミレューションしてみよう
*問題を表面化する
 帰る時刻になっても、黙って仕事を続けるのはやめよう。「今日も帰れない」と言ってみる。利用者に聞こえても構わない。利用者にも理解してもらう必要がある。そして決して退勤時刻にタイムカードだけ押して、戻って残業しないこと。

*残業制限ルール
 残業代の支払いについて、会社によっては、残業申請を制限するルールがある場合がある。
 〈利用者のケア以外の、申し送り、記録などの事務仕事、イベント準備などは残業として認めない〉〈掃除やかたづけ作業などは労働時間外にやること〉〈職員会議、利用者家族との面談にかかった時間は労働時間としてはカウントしない〉
 ふざけるなと言いたい。記録、イベント、かたづけ、会議、面談は、介護職の立派な業務、労働として認めないという屁理屈は勝手にほざいてろという類のものだ。むろん、これらの制限ルールは明らかな労基法違反だから、就業規則には載せていない。従うことはない。
*残業を認めないのは誰なのか
 時間外手当の申請の方法を確認しよう。申請用紙はあるのか、誰に提出し、誰が承認するのか? 一般的には残業の事実とその事由を把握できる現場の管理職によって残業手当の有無が決定される。そこでシャットアウトされれば事業所全体の問題。「しかたないでしょ」という仲良しの職員は説得しよう。会社が刑事罰もある法律違反行為を犯しているのにあきらめることはない。
:労基署対策
 労基法違反だから仲間と労働基準監督署に訴えよう。でも、労基署は泣きついてもなかなか動いてくれない。法律に基づいてしか動けない行政機関だから、こちらも準備がいる。労働時間を毎日きちんと記録する。残業未払いの証拠となる給料明細書。これらの証拠の揃え方は専門家のアドバイスを受けるといい。
 介護事業所にとって労基署から是正勧告を受けるというのは、打撃が大きい。信用を失うばかりか、罰金刑になれば、都道府県は事業所の指定取り消しをすることまでできる。だから慎重にね。労基署行くことは会社に秘密にしておこう。いきなりガツンとやって労働者の力を見せつけてやろう。このタイミングで労働組合結成もありかな?(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第81号 2017年4月1日発行より

連載・介護労働の現場から〈働き方編8〉 それ労基法違反

連載・介護労働の現場から〈働き方編8〉

それ労基法違反ですから

 介護業界は、人手不足と命を預かる現場だからという理由で、労働基準法違反の労働慣行が平気でまかり通っている。違法な職場ルールをチェックしてみよう。

①サービス残業

 人手不足だと、当然、時間内に仕事が終わらない。次のシフトにその仕事を押しつけて、「ハイ、さよなら」と帰ることはできない。
 それに、利用者に不測の事態、救急搬送とか介護拒否がある場合、これも帰れないで、何時間もの残業になったりする。
 あと、委員会やイベントの準備は業務時間内に時間がとれないので残ってやるのが暗黙のルールで、職場の人間関係上、「帰れない」。
 問題は、それがほとんどの介護の現場でサービス残業になっていることである。なぜタダ働きなのか? 残業未払い問題は、働き方改善の突破口なので、稿を改めて論じたい。

②欠勤は代理を探さないと認めない

 介護現場はシフト制。決まったシフトに欠員がでると、業務がまわっていかないので、代わりのスタッフを探さなければならない。でも、それがなぜ労働者の義務なのか? 欠員の補充は事業者側の責任。「代わりの人がいないなら出勤して」という命令は違法。欠員対応は事業者にまかせましょ。

③遅刻・欠勤の罰金制度

 遅刻や欠勤を減らすために、遅刻30分5千円、欠勤5万円減給なんてペナルティ、信じがたいが、介護業界にはまだまだある。減給は就業規則に記載がなければ違法。就業規則にあっても、労基法では、1回の額が平均賃金1日分の半額を超えないこと、額が月給の賃金の10分の1を超えないことという上限が決まっている。激務で体調壊して休んでいる人間から、さらに大金をぼったくる雇い主にだれがついていくかよ。
 ④時間外の仕事や連絡
 オフの日でも、電話やメールをバンバンよこして、業務対応させたり、職場に来るように呼び出す。呼び出しで出勤しても、休日扱いで賃金払わない。これも労基法違反ですから! 

⑤有給休暇を理由によって却下

 いちいち有休の理由を聞いたり、書かせたりする職場がある。「遊びに行くなら出勤してよ」「家族旅行、他の日に行けないの?」とうるさい。理由は「私用」だけで充分。労働者に有休日を決める権利がある。ただ、事業者は「時季変更権」というのがあり、繁忙期などは取得をずらしてくれないかをお願いする権利はある。
 これ以外にも多々あるが、業界に巣くう暗黙のルールなんか無視して、まず勇気をだして「それ、労基法違反ですから!」と言ってみよう。(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第80号 2017年3月1日発行より

連載・介護労働の現場から〈働き方編6〉感情を押さえつけない

連載・介護労働の現場から〈働き方編6〉

感情を押さえつけない

突破口は泣き言

入職して数か月経ち、身体を動かすことに慣れると同時に腰痛が始まり、疲労がたまっていることを自覚するようになる。どうしてこんなに仕事がきついのか? でも聞いてくれる先輩もなく、さらに極め付け、16時間勤務の夜勤の仕事も始まり、もうこのままでは「殺される~」と、3か月くらいで辞めてしまうことも多い。
そこで突破口。泣き言を現場でガンガン言ってみる。「身体ガタガタ、もうもたないよ~明日休むかも?」「あ~ダメ。もうできない」「ムリですよ。それはパス」…。
この悲鳴を無視したり、「お前はバカか。やるにきまってるだろ」という先輩がほとんどかもしれないが、中には代わってやってくれる頼もしい先輩もいるし、「無理だよね。きついよね。それやるの、やめよっか」と同調してくれる仲間もいる。
これが風通しのいい職場にする第一歩。感情は出さないのがプロといわれている介護業界で泣き言を口にだすには勇気がいるが、こう考えよう。
人手不足で利用者は食事・排泄・入浴以外は、寝かせっきり、座らせっきりで放置され、やがて死んだ魚の眼、能面のような無表情になり、その傍らで職員はひたすら黙々と業務をこなす日常。
職員がまず弱みをさらけ出し、自然な感情を出すことにより、利用者が溜めていた孤独のつらさを開いてくれる突破口になるかもしれない。介護者と利用者は、サービスを一方的に提供するだけの関係ではなく、生活を共にしている顔なじみの関係にならなければ介護は成立しない。だから安心して泣き言を情報公開しよう

感情の解放

介護は毎日がジェットコースターみたいなもので、穏やかで順調な時が続いても、ちょっとしたことで、いきなり急降下する。それをスタッフが黙って引きつった顔で動いていると、動揺が利用者に伝わって不穏になる。
ところが、みんなでワァーキャァ言いながら対処すると、利用者は、ワァーキャァには敏感に反応するが、案外不穏にはならない。何か面白そうだと刺激を受ける。終われば「大変だったね」と声をかけてくれる人もいて、利用者との生き生きした交流が始まる。これが介護現場を労働者と利用者の空間にする始まり。
介護現場で禁じられている、ワァーキャァや私語、雑談。これらを解放するだけで、現場は柔らかい風が吹く。ストレスがたまらないし、前向きになれる。利用者は、人生の先輩としての柔和ないい顔になる。
感情を押さえつけ、ジェットコースターに慣れてしまうのは、実は怖いこと。ケアレスミスや虐待、パワハラはそのような土壌から芽を出す。ジェットコースターでワァーキャァ、落ち込んでるときは利用者に言ってみる。いいことがあればウキウキ…、人間が人間を介護するのに感情は必要だ。
(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第78号(2017年1月1発行)より

連載・介護労働の現場から〈働き方編5〉機械とパソコン

連載・介護労働の現場から〈働き方編5〉

機械とパソコン

機械化で腰痛を防ぐ

90年代に先進国では、健康被害を理由とした労働者の要求で介護の機械化が行われた。導入にさほど労使の対立はなかった。日本では、労働基準法でモノの取り扱いには重量制限があるが、対人労働はその重量制限から外されているため、介護職は腰痛などの健康被害が慢性化している。
ところが現場の労働者にはリフトなどの介護機器は評判が悪い。「介護はこころ」より大きな理由が「装着に時間がかかるから」。
抱きかかえて「せ~の!」で一発に移乗すれば利用者一人当たり2秒ですむが、リフトを使っていたら二人で2~3分かかる。それでは時間内に業務がこなせないというわけだ。
時間内に業務がこなせなければ人を増やせばすむハナシではないか。労働者の健康のほうが大事だ。腰にコルセットをし、整骨院に通い、重症になると一生台なしになってしまう。なのにどうして機械化に抵抗するのか? なんでもかんでも人の手でやるのではなく、機械や道具の手を借りて、腰痛のない職場にしよう。

ICT化に備える

機械化と同じく、介護現場で進んでいないのがICT(情報通信技術)化である。
介護保険の役所への請求は原則インターネット経由なのでパソコンのない事業所はまずない。しかし、介護の現場では、記録は手書き、引継ぎや連絡も口頭かノートのアナログが支配している。
介護は介護保険上、利用者に何かケアをするたびに書類の作成が必要だ。公的文書なので手書きの間違いは横線で消し、書き直して修正印を押す。記録はかなりの量で、そのためにサービス残業したり、肝心の介護はほったらかしになる。それでもパソコンに慣れない介護労働者は苦手意識が強く業務に手一杯で、パソコンなんて触ってられないと反対が強い。
経営者がICT化しないのは、PC本体にソフトやアプリ、無線LANなどの設備投資が必要だからである。
デジタルの世の中で介護分野のICT化はさけられない。労働者がパソコン苦手なんて理由で抵抗していると足をすくわれる。どれだけ人員不足であっても人への投資をしない(できない)経営側は、ICT化投資を理由にさらに人員を減らすだろう。

ちっぽけなプライド捨てる

p0077_03_01a 機械化もICT化も人員不足と密接な関係がある。労働者が国や経営者が決めたシステムを絶対視し、ちっぽけなプライドで後ろ向きに抵抗するのは国や経営者の思うつぼ。使い捨てられるだけ。
パソコンやるよ、機械化結構。でもその金でまず人を増やせ。機械やパソコンを操作するのは労働者だから、人増やさなきゃ、みんなでストライキやるよ…それくらいの大きなプライド持ちたいね。(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第77号(2016年12月1日発行)より

連載・介護労働の現場から〈働き方編4〉

連載・介護労働の現場から〈働き方編4〉

介護スキル

誰に教えてもらうか

「愛されキャラ」必須最低条件は、身体介護ができること。
そのスキルを習得するのに、一番だめなのは、引っ込み思案。自分の業務で手一杯の先輩は、待っていても丁寧に教えてくれない。だから短期間でスキルを習得するには、刷り込み学習しかない。
これは、と思う先輩を決め、その後を生まれたてのアヒルのようにずっとついて回る。ひたすら真似をし、自分でやってみて先輩に見てもらう。
この先輩の選び方が肝心だ。身体介護のやり方は人によって違う。「介護はこころ」派は×。職人的超絶技巧の持ち主も×。スキルはほどほどで、やり方を根拠をもって説明できる先輩がベスト。
利用者がラクで、職員に負担がかからないということをコンセプトに経験を積んできた人。そういう人は利用者をモノ扱いしないので、利用者の信頼が厚い。その弟子になるのだ。
派閥のボスの弟子になるのが近道だと思うかもしれないが、ボスは権力志向だけで、改革の意思を持たない。後々、ややこしい人間関係に苦しむのが目に見えている。誠実に介護をやっている人とつながるべきなのだ。

リフトを導入する

身体介護のやり方には身体メカニズムによる根拠がある。本来は、生まれたてのアヒルは刷り込みじゃなく、きちんと研修を受けるべきなのだが、途中入社だと、少人数や一人で研修なんかやってくれない。現場で対応するので、いい加減で、半年もたてば腰痛が慢性化する。
施設外で研修を受けるのもいいが、半日で1万円近くの講習費をとられる。書籍、無料ネット動画で我慢するしかない。
移乗(ベッド⇔車いす⇔椅子・トイレ)、入浴、排せつなどの肉体労働は過酷だ。これらの仕事を介護者が直接、利用者を抱きあげたり、持ち上げたりしているのは、外国では見られない。リフトを使う。日本でリフトが普及しないのは、費用の問題と、やはり「介護はこころ」、冷たい機械でなく暖かい人の手でという妄想のせいなのだ。
想像してほしい。華奢で小柄な若い女性のケアワーカーが体重60㌔の利用者の両脇に腕を入れて抱き上げ移乗する。利用者の顔はケアワーカーの肩にうずもれているから、何も見えない。力のない人に持ち上げられているので超こわい。この身体介護のどこが暖かい介護なのか? リフトに乗せられて、顔と顔を合わせて、やさしい言葉を掛けられて移乗するほうが、よほど暖かいし、安全だ。
いいかげんに、この国は補助機器による身体介護を標準化すべきである。機械化を導入している施設は、利用者にも評判が良く、職員も健康理由による離職が減り、定着率がいいという。
(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第76号(2016年11月1日発行)より

連載・介護労働の現場から〈働き方編3〉自己マニュアルと日課表

連載・介護労働の現場から〈働き方編3〉

自己マニュアルと日課表

※手順を身に着ける

施設内のマップはできたかな?
これは便利。コピーしてスタッフに普及させよう。緊急避難にも役立つし、日照など居室環境の維持、利用者との話題にもなる。じっくり見ると、設計の良し悪しでその事業所の経営理念まで透かし見ることができる。
次にマニュアル。マニュアルはいわば仕事の手順、これもなければ作る。
これまでのマニュアルがあっても役に立たないなら作り直す。先輩のやり方をメモし、家に帰ってから排泄、移動・移乗、入浴、食事、雑用などと項目別にまとめる。難しいなら、書店の専門書の介護書籍コーナーに行けば、現場に適用できるマニュアル書籍が多数。
新人にまずマニュアルを習得させるやり方は合理的なのに、「一人ひとり違うから身体で覚えろ」で来たから、基本マニュアルすらまとめる能力がない。それを「介護はこころ」「マニュアルどおりにはいかない」とごまかしているのが実状なのだ。

※時間の管理

マニュアルと同時進行で日課表を作ってみよう。
介護保険上、食事は1日3回、入浴は1週間に2回以上、その他、排泄、更衣、移動・移乗など、業務には時間割があるはずなのに、日課表がない。口伝えの取り決めだけで各職員がセカセカ動き回っている。ムダ、ムリ、ムラな動きは日課表で解決できる。
それに日課表の時間配分と人員配置をみれば、「介護はこころ」=過重労働+サービス残業であることが一目瞭然になる。

※個別ケアの正体

「一人ひとりに寄り添うケア」といって、厚労省の指導下、管理者が個別ケアを強調する。個別ケアといっても、入居者3人に1人の職員配置。これは入居者10人なら職員3・3人が24時間365日を分けあって働くということ。個別ケアなんて、どだい無理な話なのだ。食事、入浴、排せつなど時間を決めて一斉にしかやれない。
n0075_03_01a マニュアルと日課表は、実際の現場では、利用者の状態によって臨機応変、優先順位をつけて対処することを強いられる。だからといって、なければ、介護の質をキープできないし、労働環境を精査することも不可能だ。人手不足であればあるほど、マニュアルと日課表は必要不可欠なものだ。

※愛されキャラ

マニュアルと日課表を作っていく過程で、この仕事に徐々に愛着がわいてくるし、確実に介護のプロとして成長していることが、自分自身でも実感できる。
しかし、立場上は身体介護もろくにできない新人だから、先輩方に嫌われちゃいけない。「ちょっと変わってる愛されキャラ」が一番やりやすい。
(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第75号(2016年10月1日発行)より

連載・介護労働の現場から〈働き方編2〉自己オリエンテーション

連載・介護労働の現場から〈働き方編2〉

自己オリエンテーション

身体で覚えろ

職場であいさつ終われば、さっそく仕事。職場に回される前に座学研修やオリエンテーションがある施設も増えたが、介護はまだまだいきなり現場の業界。
最初から身体介護はやらせない。まずは、フロア(呼び方は施設によりいろいろだが利用者が居室以外に集まる部屋)での見守り。利用者が椅子やソファ、車いすで座っているのを「何にもしないで観てて」と言われる。お年寄りもこちらを見ている。正直つらい。しかし、それも半日程度。
午後になるとお茶くみや洗濯、掃除、下膳などの仕事を割り当てられる。このような家事的な仕事に対して、普段やり慣れなくてまごまごしていても、やり方などの説明はほとんどない。効率よく、ちゃっちゃとやって当然。
作業が終わって次に何をやる?ところが、さっき指示した職員も見当たらない状態のことも多い。こんなに人手不足なのに、現場職員は、新人ウエルカムの態勢ではない。
たとえ「わからないことは訊いて」と言われ、質問しても、職員が苛立っているのがわかる。業務に追われてるのに、つきまとっていろいろ訊いてくる新人がうっとうしい。なぜ、今日、私が教える係をやらなきゃならないわけという不満がありありと見て取れる。
たった一日で新人教育なんてものはなきに等しいと悟る。辞めてしまう人もいる。いまだにアタマでなく、身体で覚えろの前近代的な世界なのだ。いい加減な口伝えや勘に頼った働き方で、まともな人材は育つはずはなく、介護職の社会的評価も給料も低いままだ。

道順よりマップ

この少子化時代に、身体で覚えろでこき使い、ボロ雑巾のように捨てていくから人が定着しない。もうど根性部活路線はやめて、アタマで考える、合理的科学的で、専門性の高い労働者をめざそう。
そこで最初にオリエンテーション。中学一年生だって、入学式のあとはオリエンテーション。他業種でも常識的だが介護業界はほとんど存在しない。
n0074_03_01a まず、施設の概要や一日の仕事の流れ、職員の役割分担やシフトを知る。そのほうが早く仕事を覚えられ、混乱やトラブルを回避できるのに、オリエンテーション、まずない。
なければ作ろうよ。自己オリエンテーション。まず最初は施設内の平面図、配置図。入手するか作成する。位置情報に対して先輩が教えてくれるのは道順にすぎない。新人はグーグルマップで覚えるというわけだ。介護職員にきいてもダメなら、事務職や理学療養士、医務職なども協力してくれるかもしれない。先輩介護職を飛び越えて他業種と接触することには意味がある。(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第74号(2016年9月1日発行)より

連載・介護労働の現場から〈働き方編1〉

連載・介護労働の現場から〈働き方編1〉

パルチザン

働き方。まず介護事業者は、従業員十人程度の小規模から数十万程度の大手まである。大手でも1事業所はせいぜい百人程度の利用者で介護職は40~60人くらい。
大手のブランドで安定をとるか? 楽しく介護の仕事をすることをとるか? 目的によって働き方は異なる。この欄では後者の働き方を念頭においてるよ。
採用されて介護は初めてだと仮定して、働き方の稿を進めます。
ブラックかどうか
今どき、タイムカードない、交通費でない、社会保険ない、休憩取れない、サービス残業常態化…。国から介護報酬受け取っておきながら、そんな働き方をさせるブラック事業所は、分かった時点で即、やめる。
次に入社手続き。労務管理がしっかりしているか。契約書・就業規則など文書を提示しないところはまあブラック。採用決定に浮かれていてはいけない。非常識な業界に足を踏み入れようとしているのだと警戒したほうがいい。
入社時に、健康診断書の提出を求めるところが多いが、診断書にかかる費用は1万円以上、会社負担でない場合、急ぐことはない。様子見し、続けられると思ったら健康診断を受ける。督促されたら、お金がないんですといえばいい。本来は会社負担なのに素直に従うべきではない。
p0073_03_01a 最初の給料の明細書は、きちんとチェックし、不明な点は事務に訊く。事務が間違えたり、直近の法改正を知らない場合も多い。きちんと答えてくれない場合は半ブラック。相談窓口としては労働条件相談ほっとライン(厚労省)
元気にあいさつ
さあ、勤務初日です。かなりテンパってるかもしれないが、あいさつと自己紹介だけは、明るく元気に、できるだけ笑顔で。これは社会人教育の常套句だね。あいさつに対する反応で職場チェックをする。介護はお年寄り相手の仕事だが、チームワークの良し悪しがすべて。経営者が夢のような空虚な理念を掲げ、職員が精神論で踏ん張ってる施設は地獄だぜ。
介護は国の制度設計がむちゃくちゃで労働者にすべてのしわ寄せがきている。鎖につながれた奴隷船のイメージで日々働いている労働者も多い。きっぱりやめようね、そんな妄想。パルチザン(六月蜂起、ゲリラ、真田十勇士、スーパー戦隊、モンパラ、バトルガール…なんでもOK)の妄想にリニューアルしよう。
そして、元気にあいさつ。パルチザンの仲間にだよ。これから、現場労働者が愚痴や不満を出せる環境をつくる。そして思いを共有できる仲間をつくっていく。介護は実にめんどくさい仕事だから、シンプルに考えよう。介護の仕事は、お年寄りによい老後をすごしてもらうこと。
それが目標だ。
(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第73号(2016年8月1日発行)より

連載・介護労働の現場から〈働き方編〉 出発

連載・介護労働の現場から 〈働き方編〉

今号より『介護労働の現場から』パート2〈働き方編〉を開始します。筆者は前シリーズと同じく「あらかん」さんです。

「これ以上、働けない」からの出発

私が介護の仕事を始めた4年前と現在とは、介護労働に携わる人がずいぶん様変わりしていると感じる。
いわゆるオバヘルといわれていた中高年女性はかなり減り、施設介護などは異業種から転職してきた30代~50代の人が中心になってきたように思う。
他の業界を経験しているから、給料は少ないまでも、休憩なしやサービス残業はおかしいと考えるきわめて常識的な人が増えた。
経営者側も異業種大手の参入で、教育研修や人事評価制度は整ってきた。だからといって、決して労働環境や条件が良くなったわけではなく、労働者をこんなに安くこき使えるから介護に参入してくるのだ。
一方、利用者側も、介護を消費者としてサービスの質を吟味するようになってきた。介護保険施行から16年。人びとは、介護は金で買うもの、金がなければ、介護してもらえないとごく普通に思うようになってきている。何のための保険制度か。
そして、介護業界だけでなく、メーカーからサービス業まで諸々の企業は、高齢者増加で潤っている。そういう流れのなかで、金のない高齢者と介護労働者は、すっかり置き去りにされているのだ。
また、施設での虐待や放置事件が大きく取り上げられるようになり、若者はますます介護に参入してこなくなった。離職して他の仕事に就く(燃え尽き症候群)働き盛りの人材流出も止まらず、介護の質は落ちる一方だ。

最近、ある工事現場で〈安全優先・過重労働禁止〉というスローガンが掲示されているのを見て軽いショックを受けた。介護の現場では経営側だけでなく労働者の間でも、そのような共通認識すらないのだ。「これ以上働いたら、自分がこわれてしまうか、虐待してしまいそう」と、お互い愚痴ることすらない分断され孤立している介護現場。
なんで? なんで? なんで?
介護現場にいるのは労働者なんだよ。奴隷工場みたいに誰かが見張っているわけではなく、現場には労働者しかいない。だから仕事が目いっぱいで業務がこなせない日は、労働者の判断で次の日にやればいいではないか。
私の職場では最近、一日中徘徊している利用者に人手をとられて、予定していた4名の入浴が難しくなった。「今日は入浴なし」と誰彼ともなく言い、みんなで入浴は中止にした。一種のサボタージュだが、それでいいではないか、「過重労働禁止!」。
次の日、管理者から事情聴取されたが、できないものはできない。私たちはモノではなく人間を相手にしているのだ。人を増やしてもらわなければ、まともな介護はできない。

介護の中心は高齢者と私たち介護労働者だ。それを周辺化する相手とは、雇い主といえどガチンコ勝負だ。すでにいっぱいいっぱい、これ以上働ければ、より弱い高齢者に矛先が向いて、虐待や放置をしてしまうかもしれない。
だからこれ以上働けないとみんなが口々にいった。それでも、できないというものをやれというなら、経営側に説明責任がある。結果、一人増員されることになった。
n0072_03_01a 介護労働の問題は、国の政策と結びついている。まだ経過観察が必要な患者がどんどん病院から施設に送り込まれてくる。一方、個別ケアを押しつけられているので、流れ作業的介護に罪悪感を持つ日々だ。介護労働は経営者を追い詰めても抜本的解決にならないことは百も承知で、それでも虐待に手を染める前に、燃え尽きる前に、一ミリのゆとりをもって労働者自身が「働き方」について考えてみたいと思った。
労働内容を精査し、働きやすく、利用者にとっていいように労働者が変えていく。つまり働き方を変えるのだ。それは、たった一人でも始められる。

「介護労働の現場から」パートⅠが以前の私の経験なら、これからのパートⅡは働き方編、働きやすい介護職場にするための考え方やその攻略を書いてみたいと思っている。それらは、4度の転職のおかげで多様な現役介護労働者から得た知恵も多く含まれる。介護労働の現場が働きやすい職場になることを願って新たな連載を始めたい。
私自身難しい課題ですが、ひきつづき、ご愛読をよろしくお願いいたします。
(介護福祉士・あらかん)

ちば合同労組ニュース 第72号(2016年7月1日発行)より

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