書評『求人詐欺/内定後の落とし穴』(今野春貴著)

書評『求人詐欺/内定後の落とし穴』(今野春貴著)

横行するブラック求人 労働者の教訓は?

 生きるためには働かなくてはならない。わざわざ悪条件の場所を探す人はいない。仕事を探す労働者は自分に与えられた条件で可能な限り好条件の仕事を探すだろう。
そのために資本が提示する労働条件をみながら仕事を探すわけだ。
でも自分を含め、ほとんどの仲間は入手可能な求人票が信用ならないことを知っている。賃金から始まって、労働時間・拘束時間、処遇のあらゆるところまでウソで塗り固められているため何を信用して求職活動をしていいかわからない。自分もこれには相当泣かされた。
多くの労働者がだまされ、無用な苦労を背負わされて死屍累々になったころ、ようやくこうしたことが「求人詐欺」なのだと認知され始めた。
今回紹介するその名もズバリ『求人詐欺/内定後の落とし穴』(今野春貴著)には、現在観測されているさまざまなだましのテクニック、だましのテンプレートともいうべきものが紹介されている。
ウソの求人情報で採用した後はパワハラと恫喝によって精神をくじきからめとる方法はエグイと言うほかない。
だが、無法地帯である新自由主義ニッポンで生き抜くためには知っておかねばならないことばかりだ。少なくともこの本で紹介されている事例は多くの犠牲者を出しており、自分自身もその列に加わることがないようにしたい。
その上で私たち労働者が得るのはこの教訓だ。「資本(会社)を信用してはならない」「考え学ばなければ食い物にされる」「政府は労働者の味方ではない」
これらの教訓は私たちが個人としてより賢く強くなることに役立つ。そう簡単にはだまされなくなるし、場合によっては個人的に反撃できる。だが、資本は強大かつ星の数ほどあるため個人がこれと闘うのには限界がある。
ここから労働者が団結して闘うことが問題の最終的解決につながる。悪事を行う資本に対して団結の力で応酬する。
詐欺でしか労働者を集められない資本には社会を運営する能力も資格もない。求人詐欺の実態を学ぶ中から資本主義とりわけ新自由主義は末期に至り、滅ぼされるべきものである確信を得られる。
労働相談のお供に、また自分や仲間を守るためにも活用できる一冊だと思います。
(組合員T)

ちば合同労組ニュース 第78号(2017年1月1発行)より

書評 『「貧困世代」社会の監獄に閉じ込められた若者たち』

書評 『「貧困世代」社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(藤田孝典著 講談社現代新書)

 アベ政治がもたらしたもの

n0069_04_01a 安倍政権の「一億総活躍社会」「総非正規職化」のもとで何が起きているのか。
本書はこのリアルな状況を鋭く描く。
著者は『下流老人』というベストセラーを出版し、20万部の売上を記録。ソーシャルワーカーとしての経験を活かし、これからの「貧困世代(40歳以下の若者)」は下流老人世代よりもっと深刻だと警鐘を鳴らす。
著者によれば、貧困世代とは「一生涯貧困に至るリスクを宿命づけられていた状況に置かれた若者たち」のことだと言う。
ブラック企業、奨学金、住めない住居……。教育の格差がさらに貧困の連鎖を生む。1月に起きた軽井沢スキーバス事故が今の社会の象徴的事態を突き出している。急速に社会が変化している。
昨年の書籍ランキングには、いわゆる『貧困本』『老後破産本』が並んだ。

社会構造と貧困

この結論は、社会に事実を告発し、セーフティーネットの整備や公的な援助を求める内容であった。
しかし、本書の特徴は社会構造を変えなければ、貧困世代は救われないとする。
なぜなら、いくら「社会復帰」し、働けるようになっても、きちんと働ける職場、賃金を支払う仕事がないからだ。貧困の問題は、4割をこえた非正規職化と過労死寸前の「ブラック企業」など労働環境の問題と一体であることが示される。

「眠れる獅子」――労働組合

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筆者は、この貧困問題の解決策が〈労働組合の復権〉だ と結論づける。

「本来の労働組合の力を若者が信じ、その力を活用しながら、労働市場に働きかけていく可能性をもっている。ひとことで言えば、日本の労働組合は『眠れる獅子』なのではないか」
もちろん筆者とは考えが同じではないが、労働組合の可能性という一点では共感すべきものはある。
貧困世代は、連帯が弱く分断が激しい世代だからこそ、他者と接する機会すら奪われている。だからこそ身近なことを話していくことが重要なのだという。
近年、大学では、学内はおろか学外の花見や居酒屋ですら飲酒を禁止しているケースが目立つ。色々なことを前提化せずに、身近なところから「まず、どうするか」を話し合っていく、おかしいことにおかしいんだと言っていくことが労働組合の役割ではないだろうか。(組合員K)

ちば合同労組ニュース 第69号(2016年4月1日発行)より

書評 『雇用身分社会』(森岡孝二著 岩波文庫)

41veso2gZML._SX309_BO1,204,203,200_書評 『雇用身分社会』(森岡孝二著 岩波文庫)

論争招く〈身分〉に込めた筆者の真意は

「正社員が安定した雇用で一番安定した働き方という考え方は、二十年後にはきっと非常識になっているのかもしれない。フリーターの存在は時代の先を行っている」
「正社員でいるとリストラや定年がある。フリーターのような立場なら本当の意味で一生涯の終身雇用が可能だ。だから今は不安定といわれているフリーターが安定した働き方になる」(『日経新聞』15年10月21日付)

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フリーターが安定?

この信じられない内容は、日本の財界が目指す労働者像を示している。
昨年末、非正規雇用がついに40%をこえた。数字だけではつかめない、リアルな雇用情勢をつかむうえで、本書はいくつもの示唆をあたえている。
格差社会の行き着いた先として、筆者は〈雇用身分社会〉と呼んでいる。これは、論争を招く規定であり、正確な言葉ではないかもしれない。ただ、本書はたくさんの資料からこの真意を導き出す。
その言葉を発する根源は、「女工哀史」の世界、つまり日本の戦前の資本主義の勃興期に由来しているという。戦前では農村にいる女性が、「募集人」と呼ばれる仲介業者によって人買(ひとかい)のようにさらわれたり、甘言でだまされ、24時間拘束され、強労働を強いられていた。
現在でいえば、派遣会社にあたる。人材派遣会社は、派遣業はもちろん、「再就職プログラム」や「追い出し部屋」などのより〝洗練された〟ビジネスにまで行いきついている。
安倍首相のブレーン・竹中平蔵はパソナという派遣会社のトップだ。彼らは戦後のいわゆる「終身雇用」「年功序列型賃金」や憲法・労働法を軸とした社会こそ異例だと主張している。
いま、「戦前回帰」という単純な構造ではないかもしれない。しかし、現在、安倍政権が募らせる戦争衝動と派遣法改悪を頂点とする雇用破壊・貧困化は一つのものだ。
「一億総活躍社会」と安倍首相は言うが、少し前に「世界で一番ビジネスのしやすい国」と言った安倍の本音に真実があるだろう。
「出口の見えない社会」と言われるが、人間らしく生きられる社会をめざし、労働組合が力をもって動き出すときだ。(K)
ちば合同労組ニュース 第68号(2016年3月1日発行)より

書評『新自由主義の本質とその導入・展開』

『新自由主義の本質とその導入・展開』

鎌倉孝夫著(発行 労働者学習センター)

鎌倉本 動労千葉の労働者学習センターのブックレットの新刊が出ました。労働学校の講師もやっておられる鎌倉孝夫さん(埼玉大学名誉教授)のお話をまとめたものです。組合員のみなさんもぜひ一読をお勧めします。
本書は2012年7月、8月に開催された「新自由主義と闘う連続シンポジウム」で行われた鎌倉孝夫先生の問題提起と質疑を収録したものです。
現在では、堤未果氏やナオミ・クライン、ハーヴェイなどの論客によって「新自由主義」という言葉が社会的に認知されてきています。
しかし、この「新自由主義」という言葉ひとつとっても、さまざまな論客の立場によって内容には大きな違いがあります。
新自由主義の導入は、1990年代の橋下6大改革や2000年代の「小泉構造改革」「郵政民営化」のあたりからという論調が多い中で、鎌倉先生は、先んじて25年前に「国鉄・分割民営化は新自由主義の壮大な実験場になっている」と鋭く批判したそうです。
それは鎌倉先生が、労働者の立場に立ち、社会主義の実現を現実の課題として論陣をふるわれてきたからだと思います。
鎌倉先生の指摘は本当に鋭い。本書は「新自由主義のとらえ方の基本は、資本の本質がズバリそのまま発揮されていること」と説きます。
新自由主義とはまさに、金儲けが第一という資本の本質そのものです。労働者が生きていくための賃金をギリギリ最低限に切り下げ、労働基準法などの法的規制を「雇用特区」の導入を契機にとっぱらおうとしています。
新自由主義の最先端をいっているアメリカでは、刑務所が民営化され、一大ビジネスにされ、デトロイトなどの大都市が破産し、大資本によって安く買いたたかれています。
この新自由主義とどう対抗していくのか? 本書は“新自由主義の変革は労働者の組織的実践によってのみ実現する――「抵抗と創造」”だと結論づけています。
労働相談などで合同労組の門をたたく労働者から「職場の労働者たちは権利意識がない。皆あきらめている」という“嘆き”に近い声をよく聞きます。
それほどまでに、「自己責任」という考え方や絶望感が広がっていると感じます。なぜこうなっているのかという社会の根本的現実をもう一歩踏み込んで考えていくうえで、ヒントを与えてくれるものが本書であると思います。
労働学校の講師陣との議論も示唆に富み、刺激的な内容になっています。価格は500円。DC会館内、労働者学習センター・労働学校事務局で取り扱っています。(組合員K)

本の紹介『25日 現代自動車非正規職蔚山工場占拠闘争の記録』

〝美しき連帯〟こそ希望(書評)

『25日 現代自動車非正規職蔚山工場占拠闘争の記録』

パク・チョムギュ 著(広沢こう志 訳)

135666◎息をのむ闘い

韓国全土が息をのみ注目し続きした、韓国における非正規職闘争の象徴とも言うべき闘いの一つ。2010年冬の現代自動車非正規職のろう城ストライキ闘争。ドラマを迫った記録、『25日』。
著者は、命がけで闘った非正規職と同じ気持ちで同じ物を食べ、同じ闘いとして記録にとどめた。この本の一つひとつの言葉から、249人の非正規職労働者の息づかいがリアルに伝わってくる。
249人が求めたこと。それは「非正規職」という四文字の言葉を変えたい。現代自動車の闘いが、総資本との壮絶な闘いとなったのは、ろう城という闘争の戦術の激しさではなく、すべての労働者の要求であり、すべての労働者の気持ちを揺り動かす普遍性を持つからだ。
この民主労総ソウル地域本部と動労千葉は深い連帯関係をつくっている。ぜひ、ちば合同労組の皆さんにも一読して欲しい。

◎総資本との戦場

8割の人たちが非正規職労祖のストを支持し、全土の注目の集まる中、突如戦争が始まった。延坪島(ヨンピョド)での韓国軍と北朝鮮軍の一触即発の戦闘。ろう城闘争を報じていた韓国マスコミは、一気に戦時報道一色になり、愛国主義一色になる。
「現代自動車蔚山工場――ここが戦場であり、ここが延坪島だということを示してやる以外ない」
この執念で25日間のろう城が闘われる。まさに現代自動車という大企業の製造工場の攻防戦こそ最前線の「戦場」です。マスコミが資本のものとなる中で、スマートフォンを駆使して、ろう城の「攻防戦」を伝えるため空腹を抱え極寒の工場の中で文字を打つ。この若い組合員の姿こそ、現代の労働運動に入る労働者たちの群像なのである。

◎「キリュン伝説」

ろう城現場で組合員を鼓舞したのがキリュン電子の労働者だった。6年間、1895日間の闘争の末、正規職化をかちとった。200人の組合をつくり占拠ストや94日間の断食ろう城ストなど、生死をかけた闘いは韓国労働運動の「生きた伝説」。
会社がつぶれる寸前まで闘いを貫き、原則を曲げずに闘う意志。かつ、笑いを忘れず、明るく闘おうと語るキム・ソヨン分会長の存在は、ろう城労働者から見れば「勝利の女神」のような存在だ。
日比谷野外音楽堂で毎年11月に開催される労働者集会に何度も来日したキリュン電子の労働者たちが、韓国で尊敬されている事実が、本書からも伝わってきます。

◎非正規職撤廃へ

『25日』の中で随所に出てくるコラム「美しき連帯」。大きな希望が労働者、家族、世論などの垣根を越えた具体的な連帯の闘いだった。これを韓国では「美しき連帯」と呼ぶ。社会に訴え、具体的支援・連帯をつくりだし、資本を追い詰めていく。
正規労働者との連帯がカギであることは言うまでもない。だがそれこそ最も資本が「外部勢力」と罵り、攻撃してくる点でもある。
美しき連帯が後に、韓進(ハンジン)重工業の闘いの渦中でつくり出された「希望バス」へとつながっていった。
「非正規職撤廃」。この闘いは、理念だけではなく、現代自動車のような闘いを一つの歴史の教訓とし、あらゆる労働者の連帯をつくり出す努力の連続、積み重ねて闘いとることにしか道はないと感じました。ぜひ一読を。(K)

本の紹介『私たちが見えますか―弘益大清掃・警備労働者の物語』

『私たちが見えますか――弘益(ホンイク)大清掃・警備労働者の物語』

この本は2011年1月3日から49日間にわたって籠城闘争を闘い抜き、原職復帰を頂点に団体協約を締結し、賃金・労働条件の改善をかちとった弘益大学の清掃。警備の労働者の記録です。
そもそも人びとはその人たちを見ようとはしませんでした。男子トイレに女性労働者が入ってきても平然と用をすませる。「ああ、あの人たちの目には私が見えていないんだ」とくやしい思いをこらえて生きてきた労働者が労働組合をつくり、闘いを通して人間となり、堂々とした労働者になったのです。
2011年、厳しい寒さの中、韓国社会を熱くした彼らの闘いは、労働者はもちろん芸能人・宗教人・学生・一般市民が参加する社会連帯・地域ぐるみの決起をつくりだし勝利しました。
月給75万ウォン(約5万円)に1日の食事代300ウォン(約20円)など劣悪な労働条件もさることながら、彼らが労働組合に加入して闘ったのは〈蔑視されるのは許せない〉ということにあります。
彼らの闘いを勇気づけたのは、公共労組ソウル京仁公共サービス支部大学分会の戦略的組織化事業にありました。〈非正規職労働者が闘争で勝つためには業種を超えて地域で団結しなければ〉と2007年に旗揚げし、4年後に3倍の1800人を組織化しました。
労働者への教育だけでなく集団交渉や共同闘争も展開し、労働者と組合指導者の関係は一方通行ではなく、労働者の力を引き出すことに力が注がれていることに感動しました。
彼らには休憩する場所もなく、食べ物のにおいや火災の危険を理由に「冷や飯」を食べなければならなりません。そんな労働現場に「あったかご飯一食」運動のキャンペーンが世論づくりに貢献しました。
こうして弘益大学で2010年12月2日、文献館(総長室のある所)前で労働組合の結成式が堂々と行われます。これでさらに多くの組合員を獲得します。だが労働組合に対する大学当局のアレルギー反応は想像を超えまったく「耳も貸しませんでした」。
そして警備や清掃を請け負う会社が代わっても労働者がそのまま働いてきた慣行を踏みにじり、大学側は最低賃金にも満たない人件費をもとに請負会社が飲めない契約延長を出します。そして翌年2011年1月2日、何も知らないで働きに出てきた労働者に突然の解雇通知。
闘う中で組合員・労働組合は今まで経験したことのない世界を見みした。組合員はどう変化したのでしょうか。
まず自らの存在に気が付きました。資本と労働者の関係、非正規職労働者として学校請負会社・労働者間の関係を知りました。何よりも間接雇用の〝鎖〟を知り、労働組合を通じた集団交渉について考えまいたた。酒飲みの話題として政治問題をとらえるのではなく、まさに自分が解決するべきだと感じたのです。
こうして労働者たちは隣の人たちを堂々と説得できるようになったのです。
労働の〝価値〟に対する考え方も変わりました。
「なによ、『おばさん』じゃなくて名前で呼べばいいでしょ」
管理者に抗議するようになった組合員をみて分会長は「ああ、そうだ。これが私たちの力だ」と感じます。
彼らの闘いがテレビで報じられると「うちの会社に来ればもっと楽で賃金のいい仕事を提供する」という申し出を受ける。組合員は心が揺れたが、今回の闘争で教わった歌が浮かんだ。
「揺らいではならない。バラバラになったら死ぬ――私なんか小さな力でも、この労働組合が一つに固まるときに力が湧くのであって、私が出ていったらだめだ。自分だけ楽に暮らそうなんて、そんなんことはできない」
こうして彼らは勝利を手にしました。韓国・民主労総の労働者はこう闘ってきました。ぜひ読んでみてください。(T)

(あらすじ)
『私たちが見えますか――弘益大清掃・警備労働者の物語』
イ・スンウォン、チョン・ギョンウォン著
労働者学習センター発行
韓国の大学で清掃と警備の仕事を担う非正規職請負労働者が、2011年1月3日から2月20日まで49日間にわたってろう城闘争を展開し、原職復帰と団体協約締結、賃金および労働条件の改善を勝ち取った。この闘争の勝利の教訓、闘いの限界、今後の課題などを生き生きと記録した本。
「人々はその人たちを見ようとしなかった。男子トイレに女性労働者が入ってきても、あわてる者は誰もおらず、平然と用を済ませる。講義の最中でも会議中でも、その人たちが働いている姿に気を留める者はおらず、なにごともないようにそれぞれのやっていることを続けた。
『ああ、あの人たちの目には私が見えていないんだ…』こんなふうに幽霊として生きてきた人々が、労働組合をつくり、闘いを通して人間となり、堂々たる労働者となった」(冒頭部分より)

本の紹介 『労働組合運動とはなにか』

「誰でも入れる労働組合を!」

英国一般労組の歴史から学ぶ

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今年1月に岩波書店から出版された『労働組合運動とはなにか』(熊沢誠)を斜め読みしました。著者も「まえがき」で書いてますが労働組合をタイトルに冠した書籍が岩波から出版されるのは、やはり労働組合の復権が要請され、期待される社会状況を反映していると思います。
労働組合の一番大切なことは「社会の主人公としての労働者の誇り」や「団結のすばらしさ」をつかむことにあると思うので、著者の「労働力販売会社」的なニュアンスには大枠でちょっと賛同しかねますが、労働研究を志してから50年という著者の言葉から刺激を受けることは多々ありました。
最初に受けた印象は「労働組合を日常、身近なものに」というスタンスです。資本主義の道徳「競争せよ!」の中で人々はアトム(原子)のようにバラバラになって、労働者同士が厳しい競争関係に陥っていることに対して、著者は「労働者の居場所」「労働者の絆」の大切さを語り、労働者のコミュニティーとしての労働組合の思想を訴えます。
イギリスの労働運動の歴史を取り上げた章では、20世紀初頭のロンドン港の港湾労働者のストライキから生まれた一般労組(ジェネラルユニオン)について書いていました。
当時の労働組合の加入資格は熟練工に限られ、3分の2以上の労働者は労働組合の枠外に貧民のまま放置されていました。その典型が港湾労働者です。100人の応募者の中からその日に仕事をさせる10人をピックアップする。どうやって選ぶのか。ケンカさせて勝ち残った10人を採用するのです。これは本当にあったエピソードです。
社会主義者たちの「このままでいいのか」とよばれるソープボックスキャンペーン(石鹸箱の上に立って決起を呼びかけた)に答えて歴史的なストが始まったのです。
貧しい「人夫」のストライキで敗北は必死と思われたのですが多額のカンパが集まり、世論も支持、スト破りも集まらずストライキは勝利を収めたのです。老エンゲルスはこのストを見て「生きていて良かった」と涙したそうです。現在も英国最大の労働組合である運輸一般労働組合はこうして生まれたのです。
「誰でも入れる労働組合を!」。これがこの組合の合言葉になります。それまで英国の労組は熟練工だけが組織化の対象でしたが、一般労組はあらゆる産業の労働者に門戸を開き、あらゆる産業に組合員を持つ横断組合として発展しました。
港湾労働者やトラック労働者、化学産業やサービス産業、商店やレストランにも組合員がいます。ブティックで解雇があれば、作業着を着たおじさんたちがおしゃれな店に抗議に押しかけ、仰天した店主に解雇を撤回させます。
地域の労働者を「組織労働者」として団結させる地域合同労組をつくるために、こうした本なども材料にもっと熱く語り合う場をもちたいと思いました。
同じく岩波書店の『仕事と暮らしを取りもどす』は米国での新しい労働運動の挑戦を描いたもの。労働者のアイデンティティと発言力を取りもどす試みに問題意識を感じました。介護職などで、知識と技術を労働者に授けることで雇用主との競争力を獲得するというもの。(S)

〈書評〉港合同『企業の塀をこえて』

〈書評〉港合同『企業の塀をこえて』
ちば合同労組の「壁」を超えるには!?

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組合ニュース29号(2012年12月5日付)に引き続き、大阪の合同労組である「全国金属機械港合同」について考えたいと思います。今回も港合同の故大和田事務局長の著書『企業の塀をこえて』からです。港合同は、「港」という地域全体を一つの企業と考え、企業の塀をこえた運動を長期にわたって積み上げてきた合同労組です。500人の組合員を擁した田中機械支部が中心に座って、港地域の地域的な団結をつくってきたのが港合同という合同労組です。
大和田事務局長は、港合同のめざす地域合同労組と地域ユニオンと呼ばれる個人加入の労働組合との違いは拠点をつくるという方針を持っているかどうかにあると書いています。
大和田事務局長は、解雇や権利侵害に直面した労働者を救済する地域ユニオンの大切さを評価しつつも、それだけであれば「駆け込み寺」になってしまうと指摘します。それだけでは、有効な戦略・戦術を立てて大きな敵に立ち向かい、攻撃の根源に向かって闘っていくことはできない、と。
労働者個人の相談を受けていくと組織は何十人、何百人となるかもしれないが、人数が増えれば増えるほど、担当者(オルグ=組合用語。労働組合をつくったり拡大することを任務とする人のことです)が少数のままだと組合を維持し、有効な闘いを組むことができない矛盾を抱えることになります。
そういう点から考えても、拠点組織をつくることが組合を維持・発展させていく上で不可欠であると強調しています。
大和田事務局長は、次のように港合同の組織論・運動論を展開しています。
港合同の組織論・運動論の一つ目は、「企業の塀をこえた運動を」「地域は1企業であり、支部は職場分会である」という活動目標です。中小零細が大半の港地域では、企業内に閉じこもっていたのでは、運動が制約され、視点が小さくなる。だから、企業別組織である支部や個人加入の労働者を地域的に結集させ、地域総体の組織を活用して闘うことに努めています。
2つ目は、労働者の連帯、交流の場を日常不断につくることです。中心となる「活動家」の意識を高めることも必要ですが、それだけでなく地域の労働者同士が日常的に交流を持ち、連帯を深めていくことが大切です。港合同では、争議中(特に倒産争議)の支部に地域から集まることに力点を置いています。倒産争議で職場を守っている支部職場に地域の組合員も一緒に寝泊まりして交流することによって、街や駅で会ったときにも会話するようになるとか、一緒に遊びに行ったりすることが、本当の労働者としての交流だ、と言っています。
3つ目が、やはり闘いの原点は職場活動にあります。ここは書き始めるとこれだけで1ページになるので割愛します。
4つ目が、地域合同労組を駆け込み寺にとどめるのではなく、〈闘いの砦〉にすることです。大和田事務局長は、優秀で献身的な執行部役員の存在の大きさも示しつつ、逆に幹部闘争のみになったり、闘争を収支やコストで考えるような打算的考え、あるいは闘いの必要性を考えず、敵の力量を一方的に評価し、闘いを避けるようになってはならないと厳しく指摘しています。
その他、自覚的団結と経営の蚕食なども訴えています。
港合同の経験や教訓を、機械的に当てはめても仕方ないですが、ちば合同労組が飛躍・発展していくために大切な示唆を与えてくれると思います。組合内の議論を活発にする材料として書きました。みなさん、ご意見よろしくお願いします。(S)

本の紹介 『非正規が闘って、勝った』―生コン運転手の闘いの記録

本の紹介

『非正規が闘って、勝った』

―生コン運転手の闘いの記録

止まらぬ非正規化

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p0064_04_01b『絶望の非正規』。こんなタイトルで特集が組まれた週刊『東洋経済』(10月17日)。
派遣法改悪で、非正規増大の深刻さに警鐘を鳴らす。この特集の中で、非正規の増加率ランキングのナンバーワン企業は「イオン」。非正規率は66%だ。ちなみに、ちば合同労組になじみのある企業では、ゼンショーHDが4位、JR東日本が20位だ。名だたる企業が非正規に置き換えている。労働組合にとっても非正規職の増大へ対抗することが急務だ。
そんな状況のなかで非正規労働者が闘って勝った先駆的闘いがある。東京西部ユニオン鈴木コンクリート工業分会だ。

ミキサー車の運転手でつくるこの組合は、一人の組合員の解雇をめぐって争い、ワンマン女社長の横暴に徹底的に闘った。分会三役が解雇されるも、3年間の解雇撤回の闘いで裁判闘争に勝利し、原職復帰。この8月、亡くなった組合員の解雇無効を認める都労委命令をかちとった。
鈴コン分会の闘いは、非正規であっても、ストライキができるし、勝利できる一つの教訓を示した。この鈴コン分会の7年間の闘いをまとめた『非正規が闘って勝った』(東京西部ユニオン編)が刊行されました。
組合員の方も、ぜひ一読をお願いします。ちば合同労組で取り扱っています。B6判256㌻。組合員価格1000円。(K)

ちば合同労組ニュース 第64号(2015年11月1日発行)より

書評『沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ!日本の医療〉』

『沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ!日本の医療〉』

市場原理が徹底した介護の実態

n0060_04_01a 5月に出版された『沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ!日本の医療〉』(堤未果著)を読んだ。

米国の老人医療や介護産業の実態などを暴露し、医療と介護をビジネスにするモンスター「医産複合体」が次に狙うのは日本の医療と介護だ、と警告を発している。
米国の医療費は総額2・8兆㌦(200兆円)。製薬会社と保険会社、そしてウォール街が結託する「医産複合体」は、病気を抱える弱い立場の人々を標的に天文学的な収益を上げている。
日本のような国民皆保険制度がない米国では医療や介護には莫大な費用がかかる。
盲腸手術200万円、ケガで一針縫って30万円……。
近年、投資家のビジネスの種になっているのが介護産業だ。日本同様、第2次大戦直後に生まれたベビーブーマー世代が高齢期を迎え民間老人ホームの需要を爆発的に押し上げているのだ。

米国の介護の実態

市場原理が制圧した介護職場の恐るべき実態とは?
全米500カ所以上の施設を持つある大型チェーンの老人ホーム。
施設の最大の特徴は、介護スタッフが最低以下の人数に抑えられており、時給は平均5・5㌦(600円程度)。一晩で50人以上の高齢者を1人の介護スタッフがみることも日常茶飯事。死亡・虐待事件で訴えられるのも頻繁という。
米国における高齢者介護施設は、営利企業であっても、建設から設備投資、施設内でのサービスから介護関連機器まで莫大な政府補助を受けることができる。このため民間老人ホームが乱立され、それが頭打ちになると、今度はウォール街の銀行と投資家が利権のにおいをかげつけた。

投資家たちの手口

投資家が率いる持ち株会社が医療法人チェーンを設立し、地域の介護施設や老人ホーム、診療所や中小病院をまとめて買収して傘下に入れてショッピングモールのように統合する。彼らの目的は資産価値を高めて株主利益を増やすことだ。
病院では、利益率が低くて医療事故のリスクが高い小児科や産婦人科、救急部門は次々に廃止する。逆に、人工透析や緩和ケアなど儲かるところを充実させるのだ。
老人ホームでは、①スタッフ削減、②給与削減、③入居者の回転率を速める――この3つを徹底的に推進することで事業の資産価値を高める。そして約5年で施設を売却し多額の売却益を得るのだ。
日本でも優良老人ホームのM&A(企業売買)が活発になってきている。以前、村上ファンドの村上世彰が高級老人ホームを買収したことがニュースになっていた。
日本でも政治家や地域ボス、建設業界が福祉利権に群がる構図があるが、それが牧歌的に思えるような重大かつ深刻な状況が迫っているのかもしれない。
――そんな感想を持ちました。介護労働運動からも世の中の核心が見えるのかもしれません。(S)

ちば合同労組ニュース 第60号 (2015年7月1日発行)より

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