『ブラック企業-日本を食いつぶす妖怪-』(今野晴貴著)(S)

〈書評〉『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪――』(今野晴貴著)

ブラック企業という言葉が一般に使われるようになったのはほんの2~3年前です。
1990年代の後半から小泉政権が登場した頃、製造業では、工場の増産や減産に対応して全国的に配置転換され、寮を転々とする派遣・請負労働者の存在が話題になりました。製造業の労働現場は、かつてのような正社員ではなく、派遣・請負労働者に置き換わっていたのです。
その後、2008年のリーマン・ショックでは「派遣村」が注目を集めました。派遣・請負で働いていた若者は、仕事がなくなると寮を追い出され、あっという間にホームレスに転落したのです。
学校では、非正規と正社員の生涯賃金の格差が表にされ、脅迫的な教育が行われるようになりました。「シューカツ(就活)」という言葉が広く使われるようになりました。大学生が何百社もエントリーしても採用されず、「内定取り消し」も話題になりました。

●大量採用、大量退職で「選別」

こういう状況の中で一気に表面化したのが「ブラック企業」です。
非正規雇用への恐怖で若者を社員をめざす苛烈な競争に駆り立て、企業側の圧倒的な優位(買い手市場)のもとで、若者を大量に採用し、「使える者」だけ残して、あとは大量に解雇・退職に追い込むブラック企業が幅を利かすようになったのです。
その「効率的」な手法が、パワハラとくり返し、若者をうつ病などに追い込み、人格的に破壊し、自己都合退職に追い込むことなのです。
本書では、ユニクロと推察されるX社の実態が詳細に記されていました。X社は新卒で入社した若者をわずか半年間で店長に育成します。4月入社で5月の連休までに戦力にするための研修は「苛烈」の一言です。みな精神を病んで辞めて「脱落」し、1年後には半数も残らないと言います。
自社の成長のためなら、将来のある若者をいくらでも犠牲にするのがX社の姿勢です。経営が厳しいから労務管理が劣悪になるわけではなく、成長するための条件として労働者の使いつぶしが日常になっているのです。
ブラック企業で有名になったワタミの募集職種は、店長候補と独立オーナー(候補)の2つだけです。店長候補として過労に自らを駆り立てられる人間しか、この会社は必要としていないのです。
これが、大量に採用した上で「使える者」だけ残す「選別」「選抜」型のパターンです。

●賃金を誇張する裏技で低賃金・超長時間労働に

もう一つが「使い捨て」型です。これは文字どおり、若者に対し、心身を摩耗し、働くことができなくなるまで過酷な労働を強いる会社です。大量に新卒を募集して、次々に使い捨てる。会社を退職しても今後の職業生活が続けられないほど心身を摩耗するのです。
その手口の一つが「固定残業代」です。過労死事件が起きた「日本海庄や」の求人は「営業職月給19万6400円(残業代別途支給)」でした。約20万の初任給はけっこう良い方です。ところがこの基本給のうち7万1300円は80時間分が残業代として前もって支払われているというのです。この企業の場合は、明らかに違法でした。しかし、採用時に同意して契約した場合は、この限りではありません。残業代を除いた部分の時給が最低賃金を上回り、固定分を超える時間の残業代を払えば、一応「合法」です。最低賃金ギリギリで信じられないほどの長時間労働が行われるのです。
あるいは、正社員として募集しているにもかかわらず、面接が終わり契約を交わす段になって非正規での契約書を渡される場合もあります。正社員として募集することで大量に人を集める魂胆です。試用期間を用いた手口が多用されます。何年働いても正社員にしない場合もあります。

●意図的にうつ病に追い込み自己都合退職に

ブラック企業による深刻な問題が若者を退職に追い込む手口です。
ブラック企業は解雇規制をまぬがれるために、社員が自ら辞めたという形を取ろうとするのです。そのために組織的にパワハラを行い、精神的に追いつめられた労働者が自ら辞めるのを待つのです。「お前は全然ダメだ」「うちの社風にあっていない」と指導し、達成不可能なノルマを課し、これができない場合は「能力不足」を執拗に叱責し、あたかも仕事上の指導や訓練の一環であるかのように偽装しながら若者を追い込んでいくのです。
「ここまでなら退職強要にならない」とアドバイスする弁護士もいます。これがくり返されると、人は簡単にうつ病や適応障害になると本書は指摘します。
そして最後に「会社を辞めた方がお互いにとってハッピーなのではないか」と退職を示唆され、労働者が「解雇にしてほしい」と言っても「うちは解雇しないから自分で辞めてほしい」と退職の決断をあくまで労働者にさせるのです。

ブラック企業との闘う労働組合運動とは

以上が、ブラック企業の実態の一部分です。関心ある人はぜひ読んでください。
問題は、こうしたブラック企業からどうやって身を守るのか、あるいは労働組合としてどうやって社会的な対抗関係・抑止力をつくっていくか、です。本書にもいくつか提案されています。
法律的には解雇には強い規制があります。労働契約法では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とあります。自己都合退職においこむためのパワハラも権利の濫用であり、違法行為そのものです。
しかし、ブラック企業の手口は、冷酷無比に若者を食い物にするために組織的、法律のグレーゾーンを突いてきます。これとどう対決するのか。
長い文章になり、書くスペースがないのでここから先は「宿題」にしたいと思います。本書は「ほとんどの人はブラック企業の違法行為を追及しても、ブラック企業そのものを変えるという発想がない」と指摘しています。ここが重要なのではないでしょうか? ちば合同労組もブラック企業との闘いを積極的に位置づけていきたいと思います。「これだ!」という闘いを始めるにはどうすればよいのか? 組合員のみなさん、一緒に考えて下さい。(S)