「石丸現象」をどう見るか?

主張
保革構造の崩壊を示した7月欧州選挙
欧州の選挙結果には土台に労働組合の存在
 異例続きの東京都知事選。立候補者は50人を超え、政策とは無関係な選挙ポスター並び、「議会制民主主義の制度」そのものが問題視される歴史的な選挙となった。
 しかし結果を見れば、「小池か蓮舫か」ではなく、2位の石丸伸二が注目を独占。10~20代の若者層の4人に1人が投票した。若者票が大型選挙で影響を与えたのは日本の歴史では近年ないことだ。
 指摘されたのが、SNSで拡散されたショート動画。驚異的に拡散された。若者層は新聞もテレビも見ない(新聞を読むのは10%)。新聞が御用化し、記者がリストラされ、ジャーナリズムや活字文化が劣化したのも一つの要因だ。
 若者層には小池や蓮舫の政策さえ小難しく見え、石丸陣営の「具体的政策は言わない」選挙戦術が功を奏したとも評されている。
 他方、蓮舫陣営はどうか。敗因は既成政党、既得権への幻滅だ。そもそも蓮舫も担った2000年代に作成したマニフェスト(公約)は一切実現されていない。若者は理想を掲げた政策そのものにウンザリしているとの指摘も。
 石丸には、福祉や格差対策、貧困対策などは全くない。実現不能な理想を掲げること自身が「ウソくさい」と敬遠される。
 だが冷静な分析もある。石丸選対には安倍友のドトールコーヒー社長や一部財界が資金を提供し、スタッフは自民党や維新出身者が回した。敗因はむしろ無党派層に浸透しない立憲民主党や共産党の既成政党にある(そもそもリベラル層の基礎票数には変化がない)との指摘も。
3000人の反極右デモ(英グラスゴー 8月30日)
労働組合の立場から
 今回の選挙の分析は労働組合にとって切実な作業だ。労働組合は「1人の痛みは万人の痛み」をモットーとし、集団的な団結を重視する。自己啓発本のような処世術を売りとする石丸とは対照的な存在なのだ。
 確かに労働組合はアナログ的で解決策をすぐには出せず、若者には「遠回り」のように映るかもしれない。しかし、若者のホームレス化や地方から歌舞伎町の「トー横」に集まる若者の急増など、個人のスキルで生き残れるという幻想が崩れていく時代が来るのは間違いない。
 若者の流動的意識をとらえることは容易ではないが、この回答の一端を見出したのが米欧の選挙結果だ。
 共通するのは戦後構築されてきた「保守vs革新」の枠組みが崩れていることだ。
 英仏で一挙に台頭した極右勢力は、労働者の失業や生活不安を移民の増加のせいにし、ひたすら既得権益や階級を攻撃。自分たちの存在を新自由主義と対決する旗手と演出した。
 重要なことは極右と排外主義への対抗軸として労働運動が登場したことだ。英国ではゼネストを担った医療や鉄道組合の若者が選挙運動を担い、保守党の地盤を切り崩し、極右の台頭を許さなかった。
 撤退したバイデン大統領に代わった民主党ハリスの人気上昇の背景には、パレスチナ連帯や労働組合に参加するZ世代を意識したことがあるとの分析もある。
 労働組合には主導権を握る力があることには間違いはない。だが、その最適解を見つけていくプロセスが日本の運動にとってまだまだ必要だ。
ちば合同労組ニュース 第169号 2024年08月1日発行より