『貧困大国アメリカ』(堤未果著)

(書評)『貧困大国アメリカ』(堤未果著/岩波書店)

アメリカの貧困ビジネスの実態を暴いてきた『貧困大国アメリカ』シリーズ完結編。グローバル資本のダイナミックな展開、これがもらたらす社会の破綻的現実を知るための秀作と言える。

●アグリビジネスによる世界支配の恐るべき実態

ウォールマート、モンサントといったアメリカの食品メーカー、アグリビジネスが世界を支配している実態が暴き出されている。人が生きるために食料が生産されるのでなく、とことんまでに利益・投機の対象とされ、どこまでも崩壊される恐るべき事実が繰り出される。
GM(遺伝子組換え)作物が急増し、特定の除草剤をセットにして海外に売り出す。戦争によって破壊されたイラク農業をはじめ、世界がGM作物で支配されていく。
この結果、7人に1人の労働者が、SNAP(アメリカ政府による低所得者や高齢者、失業者への食糧支援プログラム)によって、栄養価が低く、安全性のない食品を「食べさせられる」。儲けるのは、一部の大独占の食品企業やアグリビジネス、製薬会社だ。

●公共サービスの徹底的な破壊

特筆すべきは、公共サービス、教育、医療と言った物がビジネスの対象となっていることだ。公共サービスや社会保障が削減されている。以下、本書の要約。
メジャーリーグの試合で盛り上がるミシガン州デトロイト市のタイガース球場入り口では、こんなチラシが配られていた。
「注意! デトロイトには自己責任でお入りください」――〈デトロイトは全米一殺人件数の多い町です〉〈デトロイト市警は人手不足です〉〈人手不足のため12時間シフトで働かされ……警官は疲労困憊しています〉〈デトロイト市警の賃金は全米最低ですが、市はさらに1割カットしようとしています〉
配布していたのは、現役のデトロイト市警官たち。
デトロイトは00年からの10年間で、住民の4分の1が郊外や州外に逃げ出してしまった。財政破綻による「歳出削減」で犯罪率が増えているにもかかわらず市は公共部門の切り捨てを実施、学校や消防署、警察などのサービスが次々に凍結されている。
これは全米で起きている。10年7月にはやはり財政難に陥ったオレゴン州の自治体で維持費が続かずに刑務所を閉鎖、警官が大量解雇された町中に刑期を終えていない囚人があふれ、恐怖のあまり州外に逃げる住民が急増した。
――本書が予言したかのようにデトロイト市が破綻した。今後、破綻の連鎖が始まる。千葉の警察官がこういうビラを配っている姿を想像してはどうだろうか? もはや教育や社会保障どころではないだろう。この破綻の要因に労働組合の破壊がある。本書には、ミシガン州の徹底的な労働組合つぶしの実態が暴露されている。

●99%の分断をのりこえる団結を

また、大企業は「安い給料でも辞めずに働く労働力」として「囚人」に目をつけて、どんどん酷使している。囚人労働力確保のため、早期釈放を行わない制度まで導入されている。「花開く刑務所産業」――もうブラックジョークと言うしかない。これはリアル『北斗の拳』の世界。公務員7・8%賃下げの先にあるのは、「公共」という概念すらも破壊する社会の荒廃だ。
企業に国境はない。「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」と述べる安倍総理。「年収100万以下も仕方がない」という柳井ユニクロ社長。これに対抗していくための情報の獲得、思想、運動体が必要だ。この中心に本来の意味で、労働組合が担うべき役割があることは疑う余地はない。(K)