介護労働の現場から〈13〉君臨VS武闘派

連載・介護労働の現場から〈13〉

君臨VS武闘派

この国の65歳以上高齢者のうち認知症の人は推定15%で462万人。家族介護は、認知症が進んだ状態で限界に達することが多い。だから介護施設の利用者は、認知症が圧倒的だ。介護というと身体ケアを思い浮かべる人も多いが、身体に障害がなく認知症だけの利用者に対する「認知症ケア」も介護職の大きな仕事だ。
私のいた職場にも、そのような身体的にはほとんど自立している認知症の利用者が何名もいた。2名紹介しよう。
最初に赤城さん。元小中学校の教師で夫との二人暮らし。夫が病気で介護できなくなり入居した。アルツハイマー型認知症で感情の起伏が激しい。朝はだいたい顔をしかめて泣いている。慰めるつもりで声をかけると、いきなり怒り出す。立ち上がり「エラそうにいうんじゃないよ。あっち行け」。
だから、そっとしておく。デイサービスの人が来るとニコニコして「みなさん、おはようございます」。先生口調だ。利用者がみんな揃うと席をたち徘徊を始める。廊下をウロウロ。施設から抜け出すので、スタッフは目を離せない。玄関を出ていこうとするのを止めたいスタッフとひと悶着。「何をする。どけ! あっち行け」。スタッフに体当たりしたり、つかみかかって嚙みつく。だからといって、散歩に連れ出すと、道路を走りだし、「警察呼んでくださ~い」と大声を出す。
こんな様子だから、いままで何か所も施設を転々。以前いた特養では君臨し、他の利用者を10名も家来のごとく引き連れて夜中に集団脱走をし、特養にいられなくなった。彼女は「先生」の仕事をしただけなのに…。
次に宇田川さん。彼女も夫と二人暮らしで、家庭内暴力の武闘派で家じゅうの物を壊し、近所に向かって叫ぶので施設に入居。だが2日で退去させられる。その後、夫は暴力に耐えながらずっと介護してきた。彼女自身にも顔や腕、背中などに押さえつけられ、殴られたアザが多数ある。夫は低姿勢で「助けてください。病院も施設も行くところがないんです」。
スタッフは受け入れに猛反対した。他の利用者に何をするかわからない人物を昼間2名体制でコントロールできるはずがない。それに赤城VS宇田川になるに決まっている。でも、責任者は受け入れちゃうんだよね。宇田川夫は嬉々として彼女を連れてきた。「今、いつもの3倍の薬を飲んできましたから、昼前まではぼうっとしていますが、ヨロシク」。
昼がきた。昼食時、突然しゃべりだした。「あたしは、こんなもの食わないよ」と言いながら隣の利用者のおかずを手づかみで食べる。そのおかずを投げ、隣の利用者の髪の毛をつかみ、椅子を蹴って立つ。まるで野獣だ。スタッフが近づくと逃げて障子に体当たり。後始末をするのは私たちだ。
こんな利用者たちを自立させる私のひそかなプロジェクト。責任者には宣言したが、他のスタッフには言えない。薬の効いている朝食後に開始しよう。(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第46号より