介護労働の現場から〈10〉給料に見合った働き

連載・介護労働の現場から〈10〉

給料に見合った働き

ほとんどの介護施設は激務なので、その日一緒に組むスタッフのスキルや態度に大きく左右さ れる。小さな施設ではまともな新人研修はなく、未経験でも2~3日の見習いでひとり立ち、どれだけガムシャラにやろうと、いきなり完璧にやれるはずがない。もともとなんでもできて、仕事が早く、要領よく、人見知りもなく……、要求されるのは神業に近い。
入ってから1、2日で辞めてしまう人も多い。結局残るのは、50~60歳代で転職が難しい年代。福祉専門学校を卒業しようが、まだ転職の可能性のある20~30歳代は、介護以外の道を選択する。子育て中の主婦パートでも、30~40歳代なら、介護は心身ともに疲れ果てるので、家事との両立は無理。スーパーや倉庫などのパートのほうが格段にラクだろう。
私はフルタイムパートで、50歳代男性社員の力石さんと組むことが多かった。彼は介護職と しての経験が3年程度あったので、私は仕事を教えてもらえると期待したが、何を聞いても一瞥(いちべつ)するだけ。利用者に対しては、隣に座ったり、ボディコミュニケーションをしたりして機嫌を取る。おぃおぃ、ここはホストクラブじゃないぞ。私が未熟ながら、食事、排泄、入浴などの業務をほとんど担う日もあった。おまけに、力石は突然、職場から消える。施設の外でタバコを吸ってたり、携帯をかけていたりする。
責任者に言いつけようと思ったが、まず本人に「外に行くときは黙って行かないで」と言うと、「ちょっと一服」とか「ちょっと用足しに」とかだけ言うようになった。あまり度々なので「勤務時間はそんなに用足しできないでしょ」と言ったら、キレた。
「こんなきつい仕事さ せられてるんだよ。テキトーに休憩取らなきゃもたないよ。給料に見合った働きだけすればいいの。どんなにやっても、(利用者は)認知(症)入ってるんだから、がんばるのは自己満足。あらかんさんもテキトーにやれば。介護はそんな仕事」
なるほどと思った。あまりにも労働条件が悪いと、その仕事に誇りを持つことができず、投げやりになる。しかし、そうして質の落ちた労働に未来はない。給料に見合った働きではなく、「働きに見合った給料」こそ目指す方向なのだよ、力石さん。
後に管理者に力石さんのサボりについて話したら、彼はここで昼間働いてから家で母親の介護。それに小中学生の子どもが2人いるシングルファザーという。
私はこれまで、家族の子育てや介護、障害者など を抱えながら介護職をやっている同僚にたくさん出会った。つらい事情を抱えているがゆえに条件を選べず、職場で搾取されて、労働に誇りを失ってしまった人も多い。だからといって労働を軽蔑し、サボって人に仕事を押し付けても何にもならない。仕事仲間とつらい仕事を分け合いながら、その労働を盾に労働条件を良くしていくことしか解決はない。そこから労働者の誇りが生まれると私は思う。(あらかん)