企業組織再編と倒産・再建の諸問題

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企業組織再編と倒産・再建の諸問題

 近年、会社分割や合併、事業譲渡や株式譲渡などの手法を使った企業再編が活発だ。また物価高、人手不足などで企業倒産も増加傾向にある。整理解雇や労働条件の切り下げ、労使関係にも大きな影響がある問題です。
 今回は、倒産や企業組織の再編をめぐる諸問題について少し考えたい。
 企業倒産の手続きには、裁判所が関与する「法的整理」と、裁判以外で進められる「私的整理」の2種類がある。また事業を終結させる「清算型」と、事業を存続させる「再建型」に分類もできます。再建型には、大企業を対象とした「会社更生」と、主として中小企業を対象とした「民事再生」があります。

倒産と解雇法規 

 会社解散による解雇の場合でも、労働基準法の解雇予告義務や労働協約上の解雇協議義務などは適用される。解雇権濫用規制も同様に適用され「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できる場合」に該当するかどうかが問題となる。
 つまり、会社の解散(倒産)といっても、その経緯や解雇せざるを得ない事情や条件を欠く場合や、労働者に対する説明などの手続きが不備だった場合には「社会通念上相当として是認」できない解雇として無効となりえます。
 特に、解散による事業の廃止が労働組合を嫌悪し壊滅させるために行われた場合には、解雇無効として清算手続き中の会社に対する労働契約上の地位確認が行われうる。
 解散会社が事業の廃止を装いつつ事実上事業を継続している場合(偽装倒産)は、解雇は「客観的に合理的な理由」を欠き解雇権の濫用、さらには不当労働行為となります。
 解散会社は事業を廃止して解散しているが、その事業の全部または一部が他企業に譲渡されたケースについても、例えば、親会社の支配下にある子会社が親会社によって解散させられたケースでは、親会社に対して雇用責任を追及することができます。

事業譲渡の場合

 会社の合併には、A社がB社を吸収する「吸収合併」と、C社とD社が合併してE社を新設する「新設合併」がある。いずれの合併も、合併後の会社は合併前の権利義務を包括的に承継する。労働者の雇用や権利も合併後の会社に包括的に承継されます。
 これに対し事業譲渡の場合は少し事情が変わります。
 事業譲渡は「一定の経営目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡すること」とされ、不動産や設備など営業財産の譲渡に加えて、労働者や取引関係などを含めた事業総体を譲渡することとされ、単なる財産譲渡と区別されます。
 事業譲渡における権利義務の承継は、譲渡人と譲受人の間の債権契約において、承継すべき権利義務の範囲を設定します。会社合併の場合とは違って、個別的・特定の承継になるのです。つまり譲渡される事業に従事する労働者の雇用が譲受会社に承継されるか否かは、譲渡会社、譲渡先、労働者の3者の合意で決まるというのが通説とされます。
 近年の倒産手続きの特徴はこの事業譲渡の多用と、事業譲渡に伴って労働者が解雇される問題です。譲渡契約で雇用は引き継がないことを明示したり、譲渡先による面接で労働者を選別する手口です。倒産企業は解散し、譲渡先に行けなかった労働者は最終的に解雇されるわけです。

民事再生法とは

 民事再生法が2000年に施行され、企業再建型の民事再生や会社更生でも選別雇用(解雇)が行われるケースが激増しました。会社更生法は裁判所の関与が強く手続きも厳格なため大企業でも民事再生法を使う事例も多い。
 民事再生法は明らかに国鉄民営化の民間企業バージョンです。労働者の雇用や労働条件が譲渡先企業の裁量に委ねられ、会社合併や分割と比べても雇用継承が義務付けられず労働組合の関与も非常に曖昧な枠組みなのです。
 とは言っても、譲渡先企業によって従業員の選別が行われ、かつ事業を実質的に引き継いでいる場合には、譲渡(解散)会社による解雇と譲渡先会社による不採用は整理解雇に類似した問題が生じます。
 この場合、法人格の濫用であり、整理解雇の要件を満たしていないとして解雇無効との判断は十分にありえます。不当労働行為も成立します。

ちば合同労組ニュース 第168号 2024年07月1日発行より