利用拡大のスキマバイトアプリ 日雇い派遣の新たな手口

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アプリによる管理で日雇い派遣の新たな手口

利用拡大のスキマバイトアプリ 

 スマホアプリで仕事を探せて履歴書も面接も不要、今日明日の数時間だけも可能――そんな働き方が急速に拡大している。隙間時間を活用するアルバイトとの意味で「スキマバイト」と呼ばれている。CMもよく見かける。「好きな時に好きなだけ働ける」と宣伝されている。

 アプリに表示された求人一覧には、例えば明日夕方からのカフェでの皿洗いの仕事。店舗に到着しアプリでQRコードを読み込むと出勤が登録される。終業時間が来たら再びQRコードを読み込む。これで例えば4時間の労働がカウントされ、即日で賃金が支払われる。
 単発のアルバイトは昔からある。携帯電話が普及し「日雇い派遣」が隆盛だった時代もある(04年に製造業の派遣が解禁された)。そして最近は、労働者と雇用主の間にアプリが入ることで当日や翌日の労働でもマッチングできる仕組みができているのだ。
 スキマバイトアプリの大手タイミーの仕組みは以下の通り。労働者は事前に本人確認書類や顔写真、賃金の振込口座などを登録しておけば、仕事を申し込む時に改めて履歴書を作ったり、面接を受けたりする必要がない。アプリ画面から申し込むと先着順で採用が決まる。
 そして当日現場でQRコードを読み込むことで雇用契約が結ばれる仕組み。給料もタイミーが立て替える形で退勤後にすぐ振り込まれる。
 飲食店などで急な欠勤などの勤務シフトを調整するための利用が想定され、雇い主は賃金の3割相当をサービス利用料としてタイミーに支払うという。だが、それにとどまらず人件費を最小化する仕組みとして構造的問題がだんだん浮き彫りになっている。

その場限りの労働

 人手不足が深刻化し、政府による副業奨励といった事情に加え、労働者も物価高による生活苦を賄うためにスキマバイトが拡大しているのが実情だ。不安定な働き方だが、一般の求人雑誌やハロワークからの就職が難しい高齢者にも広がっている。スポットワーク協会によると延べ2300万人超の労働者がアプリを利用している。
 学生が起業したタイミーの運営開始が18年、翌年には人材会社大手のパーソルがシェアフルを開始。さらにLINEやメルカリ、リクルートなどが続いた。ほんの数年で利用が急速に増えた。
 同様の単発の仕事についてはウーバーイーツなどプラットフォーム企業と業務委託契約を結ぶ「ギグワーク」があるが、同時に、指揮命令を伴う雇用関係としてスキマバイトが広がっているのだ。
 スキマバイトは、その日その場限りの労働であり、人格は無視されがちでアプリの名前で呼ばれる場合もある。労働現場の人間関係から疎外され、よそ者扱いでトイレ掃除や草むしりなどを強いられるケースもある。
 早上がりなど労働時間や賃金が違う場合や、初めて働く場所なのに危険個所の喚起など安全教育や適切な指示がないことも。労災でケガをしても泣き寝入りの場合もある。
 アプリには企業側と労働者の双方が相手を評価するシステムがあるが、現実には企業と労働者個人には大きな力関係が存在し、それが如実に反映されている。
 理不尽な指示であっても労働者が文句を言えば悪い評価がつけられ、次回以降のアプリ利用が難しくなる。他方で労働者は報復を恐れて企業に低評価はつけにくい。
 ドタキャンなどで評価が下がる仕組みがあるが、体調不良などやむを得ない理由も配慮されない(災害や公共交通機関の遅延などは後から修正が可能)。

実態は日雇い派遣

 かつて日雇い派遣が社会問題化し、2012年の労働者派遣法の改定で30日以内の短期間の日雇い派遣は原則禁止となった。
 スキマバイトについて「日雇い派遣と同じで違法な働かせ方では?」との指摘や批判も多い。アプリ運営会社は「派遣労働ではなく人材紹介だから派遣法は適用されない。偽装請負にも該当しない」と主張している。
 彼らは社会保険加入義務を免れるために、週に39時間未満、1つの企業から得られる賃金は月7万8千円未満などの制限ルールを設けている。「好きな時に好きなだけ働ける」は大うそで、完全に貧困ビジネスだ。
 労働者に対する評価やペナルティー、賃金支払いはすべてアプリが一元的に管理。実態としてスキマバイトはかつての日雇い派遣と同じであり、日雇い派遣以上にプラットフォーム(アプリ)の優位性が目につく。必要な時だけ呼び出され、いらなくなったら切り捨てられる働き方が常識的になってはならない。

ちば合同労組ニュース 第170号 2024年09月1日発行より