労働基準法の大改定―何が焦点?

労基法の基本的性格・基本概念の改変狙う
労働基準法の大改定―何が焦点?
来年冒頭の通常国会に向けて労働基準法の大改定の動きが進む。すでに労働政策審議会(労政審)労働条件分科会で審議が始まっている。
安倍政権期の「働き方改革」関連法(18年)や1987年の改定(週40時間労働制と変形・裁量労働時間制の導入など)を凌ぐ内容となる。一言で言えば労働基準法の基本的性格を変えるものとなる。
労政審に先立ち厚労省が設置した有識者会議「労働基準関係法制研究会」が24年1月に始まり16回の研究会を経て今年1月に報告書を出した。「デロゲーション」がキーワードだ。「適用除外」の意味だが、後述の経団連「労使自治を軸とした労働法制」とセットで考えると、法律(労基法)で労働条件の最低基準を決めるのではなく社内の労使自治で最低基準を決めるとの考え方への転換である。
社友会や御用組合を当事者とすることで〈労働者の同意を得た〉として労基法の適用除外を認め、企業ごとに最低基準を決めるということだ。
「デロゲーション」を制度化し、「労働者」「事業所」などの基本概念も再定義し、労働者代表制度を法律で詳しく定めることで、労働組合を排除して〈労使合意〉ができるようにする。手続きも事業所単位から本社一括でできるようにする――。
基本概念の見直し
議論の中心人物が水町勇一郎・早大教授。都労委の公益委員も務める人物だが、安倍政権の「働き方改革」の旗振り役となった労働法学者だ。
水町氏が別の研究会(「新しい時代の働き方に関する研究会」2023年)で提出したレジメ「労働基準法制の改革の視点」によれば、社会の変化(実態)に適合するように法規制のあり方を変えるとして、①基本概念(「労働者」「事業所」など)の見直し、②法規制のあり方(国家による上からの一律の規制)の見直し、③多様な働き方に対する法規制のあり方の再検討――を提唱している。
24年1月に経団連は「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を発表し、デロゲーションを正面から要求し、さらに過半数労働組合がない企業を対象に「労使協創協議制(選択性)の創設」を提唱した。「実質的に労使協議の機能を果たしている社員や社員親睦会等を相手とした労使コミュニケーションについても、その意義や重要性を共有すべき」がその問題意識。
厚労省の報告書ではデロゲーションの単語は出てこない。だが「調整・代替」の表現を何回も使い、一律規制・最低基準を外して、個別の実情に合わせ、労使の合意があれば最低基準以下の労働条件を容認することを唱える。「調整・代替」の意図は明らかだ。
研究会の座長である荒木尚志・東大教授が23年12月に経団連で行った講演では概略で次のように提起した。
〝労働法は伝統的に最低労働条件を法定し、最低基準以上の労働条件は団体交渉で決めてきたが、労働者や働き方の対応化が進む中で一律の最低基準は実態に合わない〟〝労働組合の組織率も低下し、伝統的な労働法システムの機能不全が問題となっている〟
荒木氏は、長年の規制緩和で複雑化した労基法をシンプルにするためにデロゲーションを導入し、過半数労働組合がない場合の過半数代表者の詳細な制度化、複数人化や常設化、費用の使用者負担などの制度改革を提唱した。
集団的保護の否定
ところで水町教授は自らの著書では、労働法の歴史とその意義について、労働法の誕生=「集団」の発明だと説く。
資本主義の初期、雇用契約は自由な合意に基づく契約関係とされ、低賃金・長時間労働、過酷な労働条件は契約自由の名のもとに放置された。
水町氏によれば、労働法はその「個人の自由」「契約の自由」を修正する技法として法の世界に「集団的次元」をもたらした。一つは、労働時間規制、社会保険制度など労働者に一律に与えられた「集団的保護」である。
法律が定める最低基準に違反する契約は違法無効とし、契約自由の原則に制約を課し、労働者に人間的な保護を与えた。工場労働における労働条件の最低基準を定め、その遵守を罰則や行政監督によって強制する工場法が制定された。
もう一つは、労働者が団結して、使用者と団体交渉をし、ストライキなどの団体行動を認める「集団的自由」である。団結禁止法(凶暴罪)が廃止され、ストライキなどの争議行為について、刑事免責、民事免責が立法化された。
水町氏は、こうした労働法の制定の歴史を押さえた上で、①労働法の柔軟化、②労働法の個別化、③労働市場の自由化――が進み旧来の労働法は機能不全に陥っているとして、「集団」概念の消極化(否定!)に走ったと思われる。
ちば合同労組ニュース 第178号 2025年5月1日発行より


