労働者の私的領域や自己決定権 同意なしに録音等は人格権侵害

制度・政策

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労働者の私的領域や自己決定権

本人同意なしに業務の録音等の監視は人格権侵害

 使用者の〝指揮命令〟を受けて働いていても生身の人間である労働者には基本的人権がある。職場において私的自由や自己決定権を有していることはいうまでもない。業務上の必要や施設管理上の「制約」とのせめぎ合いになる。組合活動や政治活動だけでなく、個人の私的領域まで幅広く問題になる。
 近年は、就労中の服装や髪型など労働者個人の私的自由や自己決定権との関連で争いになるケースが多い。バスなどの運転士の制服の着用については「乗客に対して運転士への信頼を高め、業務の遂行を円滑にする」などの理由で裁判では着用義務ありとされるケースが多い。もっとも制服着用義務違反で解雇は懲戒権の濫用となる。
 また女性労働者だけが制服着用義務あるのは「合理性を欠く性差別」であり違法との法理は確立している。
 髪の色やヒゲでは、トラック運転手の茶髪を理由とする解雇について「(制限は)企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまる」として解雇無効の判決が出ている。ヒゲと長髪が身だしなみ基準違反として査定を下げられ担務変更された郵政労働者についても損害賠償請求を認めている。
プライバシー権
 労働者にとって知られたくない私的領域に対して不必要かつ強制的に詮索したり、関与することは許されない。
 有名な判例では、関西電力で働く民青同盟員に対して退勤後に尾行したり、ロッカーを勝手に開けて民青手帳を撮影したことは、自由な人間関係を形成する自由を侵害し、名誉を毀損し、プライバシー権を侵害し、人格的利益を侵害したと判断された。
 仕事の監視も、その態様によっては問題になる。私用電話やメールの不必要なチェックも問題がある(それまで私的メールが是認されていた場合など、少なくとも予告は必要だ)。更衣室やロッカーは職場といえども労働者の私的領域であり原則として監視は許されない。
 自分のデスクも労働者がそこで一定時間を過ごしている以上私的領域が形成される。本人の同意なしの一方的な調査は原則として許されない。
 職務遂行についての監視では、自動車教習中の録音の適否について「教習指導員が教習態度を監視されているかのように感じて心理的圧迫を受けるのは無理からぬ…録音される指導員及び教習生の自由な同意なしにこれをする場合は…人格権の侵害にもなり得ることは否定できない」(広沢自動車学校事件)との判断が示されている。
 教諭の同意なしに授業を録音し証拠とした解雇は「適正な手段とは言いがたい」「教育の自由の空気が失われ、教員の授業における自由および自主性も損なわれる」との判決が出た(目黒高校事件)。
 メンタルヘルスに関する情報(心療内科等への通院や病名、薬剤の処方)は、労働者にとってプライバシーに関する情報であり、査定や職務などに影響する事項として通常は知られずに就労を継続したいと考える性質のものだ。
 使用者側からすれば労働者に対する安全配慮義務・健康管理義務に関わる問題でもあるが、裁判では、労働者からの申告がなくても身体的・精神的健康に関わる労働環境に十分に配慮を払うべき安全配慮義務がある。特にメンタル情報については労働者本人からの積極的な申告が期待しがたいことを前提に配慮しなければならないとの判断がなされている(東芝事件)。
逮捕歴や懲戒歴
 学歴や職歴、逮捕歴をすべて正直に履歴書に書かないと経歴詐称となるか。労働者にとって積極的に開示したくない個人情報は当然ありうる。
 意図的な学歴や職歴の詐称の場合は、解雇の有効性については会社側の主張が認められる傾向が強い。だが犯罪歴の場合は、裁判例をみると必ずしも会社の主張が認められるわけではない。
 例えば、裁判で係争中の場合には「それを積極的に申告すべき義務があるとまでは言えない」とし、採用面接で賞罰なしと答えたことは事実に反しない。逮捕されても釈放され裁判にもなってないことは言う必要はない。
 また刑の執行や免除後10年経過(罰金は5年)ですでに刑が消滅した前科については「労働力の評価に重大な影響を及ぼさないなら、労働者は使用者に対し既に刑の消滅をきたしている前科まで告知すべき信義則上の義務を負担するものではない」(マルヤタクシー事件)。
 業務量横領の前科のある人が経理担当者になるのはちょっと難しいが、一般的にはそこまで申告する必要はないのです。

ちば合同労組ニュース 第112号 2019年11月1日発行より