労基法×労働組合モデル解体の動き

連載・職場と労働法

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新たな労働運動を展望する立場から問題みる

労基法×労働組合モデル解体の動き 

 厚生労働省「労働基準関係法制研究会」が急ピッチで進む。経団連も今年1月に「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」を発表した。労働政策審議会に進むのは時間の問題です。労政審答申から法案化まで一気に進みかねないスピード感です。
 少し複雑な構造ですが因数分解すると、労働基準法の適用除外を一気に拡大させることが第1の焦点。第2が労働組合を従業員代表制度に置き換えて労働基準法の適用解除させる――この組み合わせがポイントです。
 日本の労働法の仕組みは、労働基準法や安全衛生法などで労働条件の最低基準を設定し、最低基準を上回る労働条件は労働組合との団体交渉を通じた労働協約で設定することが想定されています。この伝統的労働法モデルを覆す数百年スケールの攻撃です。

労基法の適用除外 

 まず第1の労働基準法の解体・無効化について。
 労働基準法が定めるのは、労働条件の最低基準(1条)。どんな職種や職場でも労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすことが法律上の最低基準です。最低基準が画一的なのは当然です。ところがこの画一性を雇用や働き方を、多様性を理由に解除する議論になっています。
 労働基準法には例外的に労使協定を結べば1日8時間を超えて残業が可能となる仕組みがあります。しかし当初の労基法では、組合費など賃金控除協定(24条)と残業に関する協定(36条)など労使協定は限定的でした。
 労使協定制度では過半数労組、そして過半数代表者が位置づけられています。制定当時の労組組織率は5割を超え、法案担当者は過半数労組が締結主体となる場合が一般的で過半数代表者は補完的と想定していました。
 しかし、87年の労基法大改定とその後の断続的改定で、変形労働時間制の拡大、みなし労働時間制や裁量労働性の新設、年次有給休暇の計画的付与など過半数代表の関与がどんどん増えました。
 経団連の提言は、労働基準法のあらゆる領域で適用解除を狙っています(デロケーション)。労働者と企業との集団的な合意によって各社の実態に応じ労働基準法の例外を認めると言っています。
 フリーランスや個人事業主など雇用形態も多様化し、テレワークなど就労形態も様々なので、画一的な基準で画一的に保護する労働基準法は時代遅れだと言いたいのです。

労使協創協議制度 

 第2の焦点。ではその労使合意・労使自治をどのように行うのか。
 この間の議論では、露骨に過半数労働組合を否定する主張は出ていませんが、過半数労働組合がない企業を対象に労使協創協議制の新設を提唱しています。つまり労働組合のない職場(あるいは労働組合を解体して)では、会社の求めで従業員の代表を選び、その代表と会社が協定を結べば労働基準法の適用を免除できると言うのです。
 そもそも労働組合と従業員代表はまったく違う制度です。端的に言えば、労働組合は〈労働者を代表する組織〉。他方、従業員代表は、〈会社の都合で労働者を代表させる制度〉なのです。
 労働基準の解除機能が制度化された国は多数ありますが、その権限は原則として労働組合に付与されます。従業員代表への置き換えは乱暴な議論です。団体交渉権もストライキ権もない従業員代表制度を中心に据えることは容認できません。

労働運動の再編情勢

 第3は闘いの展望です。
 経団連の提言は、GDPがドイツに抜かれて世界4位に後退し、人口減少が急速に進み、日本企業の生産性が低下傾向だと危機感を募らせています。労基法を解体し、労働組合を後景化させる反動的な野望は間違いありません。
 しかし、その上で、労働組合の組織率が2割を割り従来の労使関係が機能不全に直面している面もあります。非正規雇用が拡大し、個別労働紛争が激増する状況も含め新たな労働者支配の仕組みが必要であり、同時にそれくらいの危機でもあるのです。
 07年の労働契約法や安倍政権の働き方改革関連法など、労働法をめぐる攻撃は何回かありましたが、必ずしも政府や財界の思い通りにならない現状もあります。
 例えば、労契法の制定は労働組合側の反発が強く判例の法律化にとどまり体系的な法律としては未完成です。むしろ小泉政権時代の格差拡大や非正規問題が争点化し、雇止め規制や無期転換が盛り込まれました。これは反動的な意図もありますが必ずしも資本の思い通りではないのです。
 働き方改革関連法も、電通過労自殺の問題で遺族の会が安倍首相に直談判し、裁量労働制の撤回や、高プロ制度(定額働かせ放題)の適用条件の厳格化など、財界の思惑通りには行きませんでした。
 労基法と労働組合をめぐる流動・再編情勢が生じます。米欧の労働運動の再生情勢は無縁ではありません。新たな労働運動を展望し、この問題を考えることが必要です。

ちば合同労組ニュース 第169号 2024年08月1日発行より