化学物質の新たな管理規制体制

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化学物質を原因とする労災事故が高止まり継続

化学物質の新たな管理規制体制

 化学物質の管理について、昨年4月から新たな規制が始まり、今年4月からは「化学物質管理者」の選任が義務付けられることになった。
 化学製品は最終製品の原材料となる中間材・半製品として供給される場面が多いが、私たちの日常生活は化学製品なしでは成り立たない。
 アパレルの原料である合成繊維、カップ麺の容器や化粧品、医薬品から電化製品まで、あらゆるものが化学製品を原材料としている。
 広義の化学産業に従事する労働者は百万人を超え、化学物質を使用する職場を含めればその数倍の規模となる。
 近年、化学物質を原因とする労災の発生数が高止まりしている。2012年、大阪市の印刷会社で胆管ガンの多発が発覚。原因は印刷機の洗浄剤に含まれるジクロロプロパンで18人が発症し10人が亡くなった。16年には福井市の化学工場でオルト・トルイジンが原因とみられる膀胱ガンを発症した男性7人が労災認定された。

「危険性」「有害性」

 労働災害の原因となる化学物質の性質は「危険性」「有害性」の2つに分けられる。
 危険性は引火や爆発など。有害性は吸い込むことで急性中毒を起こしたり、皮膚や目に炎症などを起こす性質を指す。有害性は、「急性の毒性」だけでなく、長期にわたって化学物質を取り込むことで健康を害する「慢性の毒性」もある(ガンなど)。
 労災を防止するためには、保護具を正しく着用することや、化学物質の容器ラベルの確認などが必要だ。規制化学物質の容器にはラベルで最低限必要な情報が絵表示や注意喚起が記載されている。
 ラベルだけでは情報が足りないので「安全データシート(SDS=取扱説明書)」が交付される。また特殊健康診断なども必要となる。
 従前から、石綿など管理・使用が困難な8物質は製造・使用が禁止されている。
 さらに特に有害性が高い物質(123物質)は一定の装置の設置などを義務付け、許容濃度や暴露限界値が指定されている物質(上記123物質を含む674物質)はラベル表示やSDSの作成・交付、危険性や有害性の特定やリスク低減措置などのリスクアセスメント実施が義務付けられていた。
 従前の仕組みでは有害性の高い化学物質に焦点を当て管理してきたが、日本で工業的に使用されている化学物質は約7万種あり、化学物質を原因とする労災の8割は規制外の化学物質によって発生しているにも関わらず、その対応は努力義務になっていた。
 多くの労働現場で、化学物質の危険性・有害性の情報の伝達などが不十分で、特に中小零細企業では必要最小限の措置も行われていないのが現状だ。ガンなどの遅発性疾患の増加についての対象化も遅れた。

法令型→自律型

 このため「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」が設置され、約2年間、検討して報告書が出されることになった。
 報告書によると、日本企業では、化学物質管理が「法令準拠」型で特定の物質や作業に対する規制を守ることで行われてきた。しかし化学物質を原因とする労災の多くは規制外物質によって発生する現状から、「自律管理」型への転換が必要として、労働安全衛生法の改定を提起した。
 こうして23、24年に労働安全衛生法の改定が実施され、自律的管理を基軸とする規制へ移行することとなった。  国が基準を設定し、企業に対してはその基準内で化学物質を取り扱うことを義務づける。だがその対応方法は各基調に任せる自律的な管理の仕組みとする。大きな転換であり、規制緩和か規制強化でかで評価は分かれている。

化学物質管理者

 今年4月からは化学物質管理者の選任義務が制度化された。化学物質管理者は、暴露防止措置の実施・管理、化学物質の自律的な管理などの対応を行う。危険性・有害性のある指定化学物質を取り扱うすべての事業場で選任が義務付けられる。
 具体的な職務は、労働者の安全衛生確保に関するもので、化学物質の容器ラベルやSDSの作成・管理、リスクアセスメントの実施、化学物質の危険性や有害性を労働者に伝えることなど。
 化学物質管理者の選任義務について事業場の規模や従業員数の定めはなく、化学物質を取り扱う事業場は規模の大小に関わらず選任が必須となる。専門的講習などの受講も必要となる。
 化学物質管理者の選任義務化だけでなく、職長教育の義務化、対象となる化学物質や業務の拡大、雇入れ時や作業内容変更時の危険有害業務に関する教育なども拡大される、化学物質に関する措置や健康診断についての検討や記録の保存など衛生委員会の付議事項も追加された。

ちば合同労組ニュース 第167号 2024年06月1日発行より