医師の「働き方改革」のインチキ
宿日直の偽装で労働時間リセットし連続勤務
4月から医師の「働き方改革」が始まる。
一般業種は、19年から残業時間の法的な上限規制が設けられ、年間720時間以内、1か月単位で最長100時間、複数月に渡る場合は月平均80時間が上限となった。だが医師や運輸業、建設業は5年の猶予期間が設けられた。
今後、医師や運輸業は原則として年960時間(月平均80時間)が上限となり、一般業種より長い労働時間が認められる。80時間は過労死ラインだ。この水準を上回ると労働基準法違反となる。
特例1860時間
しかも地域医療の確保(B水準)や技能の習得・向上(C水準)などの場合は、特例として年1860時間(月平均155時間)と設定された。
具体的には、医師を地域の病院に派遣する大学病院(連携B水準)や救急医療を提供する病院(B水準)、臨床・専門研修(C1水準)、高度技能の習得研修(C2水準)などに該当する相当数の医師が月平均155時間までの残業が合法化される。
日本の医療は、医療労働者の長時間労働で維持されている。病院で働く医師の多くが過労状態に陥る。厚労省によれば、常勤医の4割が過労死ラインの年間960時間を超え、約1割が年間1800時間を超過する。救急や産婦人科、外科などで若手医師の長時間労働が目立つ。
過労死や過労自殺も多い。10~19年の10年間で脳・心臓疾患、精神障害・自殺で労災認定された医師は53人。だが労災認定に至ったケースは、労働時間について病院側が記録がある場合に限られる。実際には労働時間が記録されていないケースも多い。
全国医師ユニオンの調査(22年)によれば1か月の当直が6回以上の人が9%、同休みゼロの人が5%、労働時間の管理が行われていない人が11%。「日常的に死や自殺について考える」と答える医師が20代では14%に上る。
大学病院の実態
特に大学病院は慢性的に長時間労働で、宿直など不規則な働き方が横行している。「夜も週末も病院にいるのが当たり前」の価値観のままだ。宿日直許可を取った病院は働いていないかのように見せかけて激務で夜通し働かされる。
大学医局は、医学部や歯学部の附属病院の教授を頂点としたピラミッド型の組織だ。内科や外科、産婦人科など診療科ごとに分かれ、教授や准教授、講師、助教、医院、大学院生、研修医で構成される。
地域の中核病院として他の医療機関に医師を派遣して地域医療全体のバランスを取る人事の役割も持っている。医局の人事は教授が握る。専門医資格や博士号をもらうためには逆らえない。
数年前までは、「研究の一環」として大学病院が給与を払わない無給医が問題となった。現在も最低賃金の水準だ。外の病院でバイトをしないと生活できない。大学病院で働いていると20代後半から30代は研修(出向)で各地の病院を短期間で移動する。
昨年5月、兵庫県の甲南医療センターで働いていた26歳の医師が亡くなった。直前の時間外労働は月200時間を超え100日間休日なしで連続勤務。労働基準監督署は「極度の長時間労働」により精神障害を発症し、自死に至ったと判断して労災認定したが、病院側は200時間の9割が知識の取得や技能の向上を図る自己研鑽と主張した。
厚生労働省は今年1月15日付の通知で労働時間に該当すると明示した。
宿日直の基準緩和
焦点の一つが宿日直許可。厚生労働省は緊急避難的措置として宿日直導入を誘導している。宿日直許可を得れば、夜間や土日、入院患者の急変や外来患者に対応するため医師が待機する「宿直」「日直」を特例的に労働時間として見なさなくても良くなる。
実際には、宿直中に緊急手術や緊急内視鏡などの処置が行われる。労働実態があっても休息とみなされ、翌日も通常勤務に入る。4月から連続勤務は28時間に制限され、次の出勤まで最低9時間のインターバルが必要となる。だが宿日直が入れば連続勤務が途切れ、翌日勤務が可能となる。
一般的に、宿日直は守衛や学校用務員など巡回などが想定されている。医師の宿日直も巡回や検温など軽度または短期間の業務に限る場合のみ許可されてきた。救急患者や出産、患者の死亡は稀な場合であればとの限定だ。
しかし19年に許可基準が緩和され、問診や診察も可能に。厚労省は「宿直中1時間に5人を診察していても申請できる」と指導している。労基署も書類が整っていれば形式的な調査で許可している。「許可が降りるかどうかは実態は関係なくただのテクニック」
ちば合同労組ニュース 第164号 2024年03月1日発行より