医療を防衛インフラとして再定義
千葉13区選出の自民党議員であり、日本医科大千葉北総病院でフライトドクターなどを務め、現在は高市政権の閣僚である松本尚デジタル大臣は、25年に「防衛有事のための自衛隊における戦傷医療能力の強化」と題する論文を発表している(日本外傷学会雑誌39巻2号)。
論文が出発点としているのは、自衛隊医療体制の「量的限界」だ。有事の際、数千から数万規模の負傷者が発生する可能性があるが、自衛隊病院のみではそれを支えきれない。松本大臣は、民間医療機関との連携は不可欠であり、国民保護法に基づく協力体制の構築が必要であると唱えている。
しかも、議論は有事の際の一時的な協力にとどまらない。論文の核心は、民間医療をあらかじめ戦争遂行の中に組み込むという発想にある。
つまり、医療機関は独立した公共サービスではなく、「国防を支えるインフラ」として位置づけ直される。大学病院や公立病院を含む全国の医療機関に対し、有事に戦傷者を受け入れるための制度設計、訓練体制、さらには補償制度などを整備が課題とされる。
自衛隊の輸血戦略
見逃せないのは、「戦争医療」の目的そのものが明確に再定義されている点。医療は単なる救命行為ではなく、「負傷した兵士を可能な限り早期に戦力へ復帰させること」を中心目的とされる。
この文脈において、トリアージ(治療優先順位の選別)も積極的に位置づけられる。限られた医療資源の中で、生存可能性が高く、かつ戦力復帰が見込まれる者が優先される。医療判断そのものが、軍事的な選別装置として機能を帯びることになる。
さらに「自衛隊における輸血戦略」として、24年2月の「防衛省・自衛隊の戦傷医療における輸血に関する有識者検討会」提言を念頭に、〝血液の確保が兵士の生死を決定する〟として血液は戦略物資だとして沖縄・南西諸島の備蓄が進む現実を示す。
また、医療は単に治療の場にとどまらず、心理的・組織的インフラとしても位置づけられている。「負傷しても必ず救命される」「高い水準の医療が保障されている」という〝確信〟が共有されることで士気と組織の維持が図られるとされる。
制度面においても、より踏み込んだ構想が示されている。大規模病院を「特定公共機関」として指定し、有事の際の受け入れを義務づける枠組みや、病院船の整備、さらには平時からの訓練や補償制度の体系化などである。

〝医療人材の確保〟
そして最大の課題として挙げられているのが、医療人材の確保である。医師や看護師をはじめとする医療従事者は、有事において動員対象となることが想定されており、人的資源そのものが「防衛力」として位置づけられている。
この構想は、医療を「防衛インフラ」として再定義し、平時から戦争を前提に社会のあり方を組み替えていく試みである。言い換えれば、医療の領域を起点として、社会全体を「戦時体制」へと組み込む動きにほかならない。
この全過程は当然にも医療労働者の職業倫理や労働条件に重大な影響を及ぼす。人命救助を基本とする医療の原則と、「戦力復帰」を優先する軍事の論理には絶対的な矛盾と対立が生じる。
ちば合同労組ニュース 第190号 2026年5月1日発行より

