持続性を失う公共サービス 崩壊する教育・医療・福祉を守れ!
労働者がまっとうに生活できる賃金を

●東大の学費値上げ
「東京大学が授業料10万円増額を検討」の報道が波紋を呼んでいる。追随して広島大学や熊本大学なども学費値上げを検討中と発表。さらに慶應義塾長が文科省に「国立大の学費を150万円に」と提案するなど、大学の学費値上げが教育・社会をめぐる大問題になっている。
これに対し東大生400人が全学集会を準備、学長との直接交渉を求めた。しかし大学側は交渉を「対話」にすり替え会場には現れずリモート開催となった。納得できない学生約百人が安田講堂前で集会を行ったところ、警備員とのトラブルを理由に警察を学内に導入する事件に発展した。パレスチナ連帯で活性化した学生の意識が、今度は学費問題で再燃している。

●労働者化する学生
近年の教育費の負担増は、格差や学力低下などを引き起こしている。親の所得が露骨に反映され、裕福な家庭の子どもしか東大などトップ大学には進学できない。
これは労働者の家庭から教育を受ける権利を奪うものだ。親の収入や家庭環境で将来が決定づけられるの意味で「親ガチャ」という言葉も生まれた。
国立大学の学費値上げは04年の独立行政法人化が大きい。国からの運営交付金が削減され、大学は資金を学外に求めて「企業化」していった。いまや日本の教育予算はOECD諸国でワースト2(世界で113位)の低水準だ。
奨学金も給付型から貸与型にシフトし、学生(とその家族)から学費を絞りとる仕組みが強化された。
同時期に労働者の低賃金・非正規の時代が始まった。大店法が廃止され規制緩和が一気に進み、24時間営業のコンビニやスーパー、外食・教育産業が拡大した。これに伴い短時間で働く「安い労働力」が大量に必要とされた。
学費の値上げと学生バイトの労働の劣化は一体で進んできた。これが、いわゆる日本の「失われた30年」の始まりでもあった。

●労働組合の存在意義
他方、米国ではこの間、学生・教職員が労働組合の組織化の最大の担い手となっている。米産業界で最も多く労働者を抱え込む企業としてアマゾンやウォールマートと並んで実は大学の存在がある。
大学自体が多くの雇用を吸収し、非正規雇用を量産する産業であり、また高騰する学費を稼ぐため大学生・大学院生はアルバイトせざるを得ない。その学生たちが職場に組合を作って闘っているのだ。その中で労組のノウハウや戦術を覚えてプロの組織者となるケースも多い。

日本でも、教育や医療、市役所などの公務員、公共交通など社会や日常を支える公的サービスが危機に陥っている。あらためてエッセンシャルワーカーの存在に注目したい。「低賃金の問題は、社会全体の持続可能性の問題となって私たち自身の問題に降りかかっている」(田中洋子・筑波大教授の著書『エッセンシャルワーカー』から)
「まともに生きられる賃金を獲得するための組合運動を作り出す」――これはある介護職場分会の大会発言だ。エッセンシャルワーカーを中心にした組織化を目指し様々な場面で議論をしたい。
ちば合同労組ニュース 第168号 2024年07月1日発行より