映画紹介『娘は戦場で生まれた』
シリア内戦で何が起きていたのか。シリア北部の都市アレッポを舞台としたドキュメンタリー映画。
シリアはパレスチナの北側に位置し地中海に面する国。第1次大戦後、秘密協定に基づき英仏ロがオスマン帝国を分割し、シリアやレバノン、ヨルダンなどがフランス勢力圏に。フランスはこの地域の住民の多数派であるスンナ派を抑えるために、アラウィー派やマロン派キリスト教徒などの少数派を重用し宗教対立を煽った。現在のシリアでも軍と秘密警察を後ろ盾としたアサド大統領の独裁下でこの構図が続く。
だが2011年のアラブの春で「未曽有」と形容される大規模な民主化デモが起きた。アサド政権は暴力で応え、政府軍と反政府派との内戦に。やがて米欧やロシア、さらにはアルカイダ系組織やISなど多数の勢力が介入し泥沼化した。
米欧は当初、「アサド政権打倒」を掲げたが、ISとの戦闘を優先し、結局、ロシアの強力な軍事支援を受けたシリア政府軍が反政府勢力を追い詰めていく。2016年後半、シリア政府軍は反政府勢力の牙城であったアレッポを封鎖し、住民数十万人を閉じ込め、住民が投降するまで数か月間の空爆と兵糧攻めを行った(後に「アレッポモデル」と呼ばれる)。
ワアドはジャーナリスト志望の女子学生。デモ参加をきっかけにスマホで撮影を始める。政府軍の空爆で街が破壊され、人びとが傷つく中で医師ハムザと出会う。彼は仲間たちと野戦病院を設置し、空爆の犠牲者の治療にあたった。2人は結婚し娘が生まれ、アラビア語で「空」を意味する名付けられる。映画はすさまじい緊迫感で現在のガザ地区に重なる。
ちば合同労組ニュース 第162号 2024年01月1日発行より