映画紹介『生きるLIVING』

労働映画
映画紹介『生きるLIVING』
 22年のイギリス映画。1952年の黒澤明『生きる』のリメイク作品。ノーベル文学賞作家のカズオ・イシグロが脚本を担当した。市役所で働く公務員のロドニーが余命半年を宣告され、自分自身の人生を見つめ直す姿を描く。
 リメイク構想はイシグロの提案で、主演のビル・ナイにあてがきして脚本が書かれた。イシグロは「英国紳士というステレオタイプな人物を演じながら、イギリス人だけでなく、世界共通の深く、心を揺さぶる人間的な要素を加えるのは、非常に特別なこと」とインタビューで述べている。黒澤版の志村喬の怪演とは対照的ではあるが、ナイが演ずるロドニーの抑制的な表情や仕草による表現もまた印象的だった。
 5歳で渡英したイシグロは、映画好きな両親の影響で黒澤『生きる』を観て衝撃を受け、「映画から受け取ったメッセージに影響されて生きてきた」という。ともすれば月並みになりがちな「毎日を人生最後の日だと思って生きるべきだ」「他人がどう思うかではなく自分は何をなすべきかが重要」というメッセージを黒澤をオマージュしつつ現代社会に示す。
 映画の舞台は第2次世界大戦終結から数年後の復興途上のロンドン。息子夫婦や部下ら若い世代の視点は少し変えている。ストーリーは概ね同じで、住民たちは汚水まみれの小さな資材置き場を子どもたちの遊び場に変えてほしいと陳情するが何か月もたらい回しのまま。無表情のまま陳情書を未決の棚に放り込むロドニー。だが医者から末期ガンを宣告され……公園のブランコに乗るシーンでは、原作の「♪いのち短し恋せよ乙女」の『ゴンドラの唄』に代えてのスコットランド民謡。悪くない。
ちば合同労組ニュース 第168号 2024年07月1日発行より