映画紹介『鉄くず拾いの物語』

 わずか230万円の資金、9日間で撮影された映画がベルリン国際映画祭で主演男優賞(銀熊賞)など3部門を受賞。ボスニア・ヘルツェゴヴィナに暮らすロマ一家を描く。
 ロマは中東欧に居住する約1200万人の移動型民族で欧州最大のマイノリティグループとされる。ボスニア戦争に従軍した夫ナジフは鉄くずを売って一家を支え、妻セナダと2人の娘の家族で貧しくも幸せに暮らしていた。
 ある日、車の解体作業を終え帰宅したナジフは妻の腹痛に気づく。病院へ急行した2人に告げられたのは流産と手術費用980マルク(約6万円)。「保険証がなければ手術はできない」。今すぐ手術をしなければ敗血症で妻の生命は危うい。「分割で払う」と懇願するが受け容れられない。やむなく帰宅するが体調が悪化し病院を再訪する。だが門前払いに。
 妻を救うため必死に鉄くずを集め、兄弟や隣人の助けを請い、国の組織に助けを求めるナジフ。組織の女性が一緒に病院に掛け合うことになるが病院に2度も拒否された妻は「行っても意味がない」と心を閉ざず。結局、その窮地を救ったのは妻セナダの妹が持つ「保険証」だった――
 息が詰まるような緊迫感が漂う映画。後で知ったのだが、実話がモデルで地元紙の記事を読み、村を訪れた監督が本人たちに演じることを提案したのだ。映画に登場する大半が実際の出来事で同じ役割を担った人びと。違うのは医者を演じた2人だけ。
 旧ユーゴを解体したボスニア戦争から約20年。「社会主義」が崩壊し、労働者階級の力が失われた現在の中東欧社会の深層断面を鋭く描く。何度も映り込む異形な巨大発電所は何を象徴するのだろうか?

ちば合同労組ニュース 第93号 2018年04月1日発行より