書評 『「貧困世代」社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(藤田孝典著 講談社現代新書)
アベ政治がもたらしたもの
安倍政権の「一億総活躍社会」「総非正規職化」のもとで何が起きているのか。
本書はこのリアルな状況を鋭く描く。
著者は『下流老人』というベストセラーを出版し、20万部の売上を記録。ソーシャルワーカーとしての経験を活かし、これからの「貧困世代(40歳以下の若者)」は下流老人世代よりもっと深刻だと警鐘を鳴らす。
著者によれば、貧困世代とは「一生涯貧困に至るリスクを宿命づけられていた状況に置かれた若者たち」のことだと言う。
ブラック企業、奨学金、住めない住居……。教育の格差がさらに貧困の連鎖を生む。1月に起きた軽井沢スキーバス事故が今の社会の象徴的事態を突き出している。急速に社会が変化している。
昨年の書籍ランキングには、いわゆる『貧困本』『老後破産本』が並んだ。
社会構造と貧困
この結論は、社会に事実を告発し、セーフティーネットの整備や公的な援助を求める内容であった。
しかし、本書の特徴は社会構造を変えなければ、貧困世代は救われないとする。
なぜなら、いくら「社会復帰」し、働けるようになっても、きちんと働ける職場、賃金を支払う仕事がないからだ。貧困の問題は、4割をこえた非正規職化と過労死寸前の「ブラック企業」など労働環境の問題と一体であることが示される。
「眠れる獅子」――労働組合
筆者は、この貧困問題の解決策が〈労働組合の復権〉だ と結論づける。
「本来の労働組合の力を若者が信じ、その力を活用しながら、労働市場に働きかけていく可能性をもっている。ひとことで言えば、日本の労働組合は『眠れる獅子』なのではないか」
もちろん筆者とは考えが同じではないが、労働組合の可能性という一点では共感すべきものはある。
貧困世代は、連帯が弱く分断が激しい世代だからこそ、他者と接する機会すら奪われている。だからこそ身近なことを話していくことが重要なのだという。
近年、大学では、学内はおろか学外の花見や居酒屋ですら飲酒を禁止しているケースが目立つ。色々なことを前提化せずに、身近なところから「まず、どうするか」を話し合っていく、おかしいことにおかしいんだと言っていくことが労働組合の役割ではないだろうか。(組合員K)
ちば合同労組ニュース 第69号(2016年4月1日発行)より