書評『なぜ今、労働組合なのか』
―働く場所を整えることに必要なこと―
「労働組合をアップデートするには?」「労組を若い人につなげるために」との問題意識を投げかける意欲作。筆者は朝日新聞の日曜版「GLOBE」の編集に携わり、世界の論点を取り上げる女性記者。労働問題専門ではないが、だからこそ目の付け所は新鮮だ。本書では、これまでの労働運動・社会運動にありがちな焦点ではなく、ジャンルの異なる労働現場に足を運び、あるがままにアウトプットする。いわば偏見のない客観性をもった角度から縦横に展開される。
着目は、筆者がこの企画を取り上げるきっかけとなったバックグラウンドだ。それは、コロナ禍で編集部へ労働問題に関わる題材や問い合わせが増加する一方で、連合や既成の労働組合への期待や存在感がなくなったこと。格差が拡大し、職場の矛盾が増加する一方で「労組につながれない人」が膨大にいることに筆者は悶々とし、関心を持ったとのこと。
そしてコロナ禍の米国で高揚する労働現場を渡り鳥のように歩く。UAW(全米自動車労組)やシカゴ教組などの生き生きとしたルポは秀逸だ。「この流れは日本にも必ず来るはず」――記者の直感が労組「再評価」の流れと重なった。
日本での取材は、そごう西武労組のストやジャンルの違う業種・地域の取り組みを丁寧に拾う。その内容は労働運動の現場を担う人から見れば評価は分かれるかもしれない。
時代は変化し確実に底流で変化が生じている。フジテレビ問題でも労組が現状打破への選択肢となったように労働組合への回帰現象は起きている。本書はそうした気づきを与える。
