今年の最低賃金審議会をめぐる動向

最低賃金制度は、賃金の下限を定め、労働者の生活を最低限保障するための社会的規制だ。日本では1959年に最低賃金法が制定され、当初は産業別最低賃金を中心に出発したが、70年代に地域別最低賃金が整備され、現在の都道府県ごとの決定方式が確立した。
しかしその後も日本の最低賃金は国際的に見て低い水準にとどまり続け、21世紀に入りワーキングプア問題を契機に再び注目を集めるように。さらに近年は戦争とインフレの進行が賃金と生活を直撃し、最低賃金の動向が社会全体の賃金決定に与える影響は一層大きくなっている。
昨年は全国平均で1121円へ引き上げられ、上昇率も6%台となったが、現実問題として「20年代に1500円」という政府目標に到達するためには年率7%を超える継続的な引き上げが必要である。

女性が3分の2
ニッセイ基礎研究所によると、短時間労働者の時給水準で、政府目標の1500円に達していない職業は全体の約43%。特に生産工程従事者やサービス職業従事者、保育士、介護職員、看護助手、販売店員、飲食物調理従事者など女性割合が高い職業に低賃金が集中し、最低賃金近傍で働く労働者の約3分の2(67・7%)を女性が占める実態が浮き彫りになった。
昨年度の最低賃金審議は、中央審議会が出した目安をめぐり地方審議会で労使対立が激化し、物価高騰のもとで生活可能な水準を求める労働者側と、中小企業への負担を懸念する使用者側が対立した。その結果、各地で審議が紛糾し、決定の遅れが相次いだ。最低賃金の発効時期は地域によって大きく後ろ倒しされ、最大で半年近い差が生じるという異例の事態に至った。
今年度の状況としては、石破政権が公約した「20年代に1500円」の目標も、高市政権のもとで事実上否定され、最低賃金政策の方向性そのものが不透明化している。

労働組合の闘い
国際的には、EU諸国では最低賃金は社会的再分配と生活保障の中核制度として位置づけられ、一般労働者賃金の中央値の60%を目安とする考え方が共有されている。単なる名目額ではなく、社会全体の賃金水準との関係で最低賃金を位置づける発想だ。
米国では「時給15㌦を求める闘い」に象徴される草の根運動が、ファストフード労働者などの非正規・低賃金労働者の組織化と連動しながら広がり、多くの州や都市で法定最低賃金の大幅な引き上げを実現している。
製造業では全米自動車労組(UAW)が3大メーカーでの同時ストライキを辞さない交渉によって大幅賃上げとインフレ調整条項を獲得し、その成果が非組合企業にも波及している。
欧州においても産業別労使交渉と最低賃金制度が相互補完的に機能し、最低賃金を上回る賃金水準の確保が広範に実現されている。韓国でも最低賃金はすでに1万ウォンを超え、購買力ベースでは日本と同等水準に達している。
以上は、最低賃金の引き上げは、単に制度的な決定ではなく、労働者の集団的行動によって支えられていることを示している。

大幅引き上げを
最低賃金をめぐって、大幅引き上げの要求は当然として、過渡的な最小限度の要求としていくつか論点がある。
第一に、最低賃金はフルタイム労働によって自立した生活を可能にする水準でなければならない。一日8時間、週40時間働けば「まともな生活」を営める賃金水準への引き上げはマストだ。長引く物価高騰のもとで実質賃金が低下している現状を踏まえれば、昨年度を上回る大幅な引き上げが必要だ。
第二に、日本の最低賃金が国際的に見て著しく低い水準にとどまっている現状を打破する必要がある。中長期的な引き上げの道筋を明確にすることが求められる。
第三に、地域間格差の抜本的是正だ。現行の都道府県別制度は格差を構造的に固定化し、地方から都市部への人口流出と地域経済の衰退を加速させている。全国一律最低賃金制度が必要だ。
第四に、最低賃金近傍の労働者が大きく増加している。最低賃金の引き上げや物価上昇にプラスαの賃上げ闘争を展望して闘う必要もある。
問題は、最低賃金をめぐる最低賃金をめぐる議論を審議会の枠内に閉じ込めるのか、それとも社会全体の運動へと発展させるのかである。生活できる最低賃金は、政府や使用者によって自動的に与えられるものではない。労働者の組織化と集団的行動、そして世論の形成を通じた継続的な社会的圧力によってこそ実現される。
ちば合同労組ニュース 第193号 2026年8月1日発行より

