深刻化する教員不足と長時間労働

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深刻化する教員不足と長時間労働

給特法の撤廃―労働時間の把握と増員は必須

 教員の働き方をめぐり中央教育審議会(中教審)の特別部会が8月28日、〈危機的な状況にあり、社会全体で取り組むべき〉だとする緊急提言を取りまとめた。
 具体的には、「登校時対応」「校内清掃」「休み時間の対応」など14業務について、地域やスタッフなど教員以外への分担や負担軽減を進め、年間の授業時間数が国の標準を大幅に上回る1086コマ以上の学校は、来年度から見直すこと、学校行事の準備の簡素化などを盛り込んだ。
 また授業や事務作業をサポートする「教員業務支援員」の全小中学校への配置や小学校高学年での「教科担任制」実施の前倒し、保護者からの過剰な苦情に教育委員会が対応するなどの対応策を挙げている。
 中教審は「教育の自由化」や「愛国心教育」などを掲げ、学習指導要領の改悪や権力介入を行ってきた。その中教審が教員不足や過剰労働への緊急提言を行わざるを得ない所に危機の深刻さもある。
 実際、学校をめぐる状況は極めて危機的状況だ。「過労死ライン」と言われる月80時間を超える労働をしている教員が中学校で36・6%、小学校で14・2%、依然として長時間労働が深刻である。
 そもそも教壇に立つ教員が足りないのだ。教員のなり手も激減し、校長や副校長、教頭が授業している。70代の教員も教壇に戻っている。
 緊急提言に対し「焼け石に水」などの批判が強い。提言や施策にはまともに予算も付かず、教員増の必要性も弱い。
 教員不足の問題は本当に深刻だ。担任を配置できないまま新学期を迎えるなど、この10数年、非正規教員の犠牲の上に成り立ってきた教育現場は限界に達している。
 教員は自分の健康や生活時間を犠牲にして働いている。休日どころか休憩時間の概念も実質的に解体されている。

給特法の制定

 教員の長時間労働の背景には「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)の問題がある。
 この法律は、教員の賃金や労働条件を決める法律で、教員の勤務態様の〝特殊性〟に踏まえて時間外勤務手当や休日勤務手当を支給しない代わりに、給料月額の4%に相当する教職調整額を支給することを定めた法律だ。
 簡単に言えば、教員の残業代を支払わない代わりに基本給の4%上乗せする仕組み
 この法律ができた1971年当時、公立学校教員の時間外勤務手当の支払いを命じる(自治体側敗訴)の判決が相次いだ。最高裁での敗訴判決も予想された状況で時間外勤務手当の支給を免れる目的で作られた法律だ。
 給特法の制定以前は、原則として公立学校教員も労働基準法37条が適用され、36協定がなければ、校長は残業や休日勤務をさせることができなかった。当然残業代が支給されるべきであった。
 しかし、実際には36協定も締結されず、長時間の時間外勤務が行われ、残業代も支給されないのが実態だった。
 そこで66年から日教組は全国で訴訟を起こし、労働者側の勝訴判決が続いたのだ。 
 人事院は63年に、教員の超過勤務については労働基準法に従って残業時間に応じて超過勤務手当を支払うべきであるとの見解を示した。
 67年には、当時の文部省は残業時間に応じた超過勤務手当を支給する方向で検討していたが、自民党文教部会の強い反対で、教職調整額による一律の手当支給と引き換えに労働基準法を適用除外する枠組みが作られていった。
 日教組は、法律の制定には反対をしていたが、結局、歯止めをかける方向の交渉で妥協し、時間外勤務を命じ得る場合を「超勤4項目」に限定する合意をした。
 時間外勤務を命じることができる場面は限定されるはずだが、実際には建前だけ。超勤4項目以外の業務は「自主的」「自発的」な業務への取り組みという形で労働時間としての管理も行われない状況となった。現在、「定額働かせ放題」と言われる状況が生み出されていったのだ。
 残業代が未払いだけでなく労働時間の管理も全くなされない。職務の特殊性で正当化できる問題ではない。

当事者の闘い必要

 もちろん法律の廃止は必須だ。36協定を締結して時間外労働については職場ごとに集団的労使自治で規制されるべきである。残業代の支払いは長時間労働の抑止のためにも絶対に必要だ。そもそも労働時間として把握されていないことをなんとかしなければならない。労働時間の把握が徹底されなければならない。
 いずれにせよ、給特法の廃止だけの問題ではない、教育予算を徹底的に削り、教員の犠牲の上に進められてきた教育行政の変革が必要だ。強権的で右翼的な文科省と中教審に対し、当事者である教育労働者と教職員労組が声を上げなければならない。

 ちば合同労組ニュース 第158号 2023年09月1日発行より