自民総裁選で解雇規制の見直しが急浮上 整理解雇4要件撤廃し企業の解雇自由を狙う

連載・職場と労働法

実践的に考える職場と労働法実践的に考える職場と労働法

整理解雇4要件撤廃し企業の解雇自由を狙う

9月、経団連と小泉進次郎の会談で焦点化

 9月の自民党総裁選で解雇規制・労働時間規制の緩和が争点として急浮上した。
 小泉進次郎は「聖域なき規制改革を断行する。賃上げ、人手不足、正規・非正規格差を同時に解決するため、労働市場改革の本丸である解雇規制を見直す」と訴え、河野太郎も公約の柱に労働市場改革を上げ、解雇の金銭解決のルール整備(金銭解雇制度)を提唱した。
 
 

整理解雇法理とは

 小泉は「現在の解雇規制は、昭和の高度成長期に確立した裁判所の判例を労働法に明記したもので、大企業については解雇を容易に許さず企業の中での配置転換を促進してきた」と述べ、整理解雇4要件について「4つの要件があって、それを満たされないと人員整理が認められにくい、この状況を変えていく」とまで言った。
 整理解雇は、企業の経営上の理由による人員削減であり労働者に非がない解雇として厳格に規制されている。
 解雇4要件とは、整理解雇を行う際に満たす必要があるとされる4つの要件で、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務の履行、③人員選定の合理性、④解雇手続きの妥当性――を指す。
 整理解雇は通常解雇の有効性の判断基準より厳格で、会社は労働者や労働組合に対して整理解雇の必要性や時期・規模・方法などについて説明する義務がある。特に労働協約で整理解雇に関する協議・説明事項条項が定められている場合は、条項に違反して協議・説明を経ずに行った整理解雇は無効と判断される。
 
 

4要件破壊の動き

 バブル崩壊後の不良債権による貸しはがしなどにより倒産が増加した2000年前後から断続的に解雇規制の見直し・緩和が俎上に上るようになった。
 整理解雇は上記の4要件すべてを満たさなければ解雇無効となる。しかし、これを〝4要素〟とすることで各要素の総合判断との論法がうち出され、ある要素が欠けていても有効となる場合があるとする裁判例が出てくる(2000年のナショナル・ウエストミンスター銀行事件/東京地決など)。
 労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関で公労使3者で構成)などでの議論を経て、解雇権濫用法理については労働基準法18条の2として03年に立法化(判例を法律化した)され、その後、07年に労働契約法に移動した(これは、強行法規である労働基準法から民法の特別法である労働契約法に移したものであり重大な後退である)。
 金銭解雇制度についても何度か論点に浮上したが、結果的には退けられてきた。また整理解雇法理については法制化はされず、判例法理として維持されてきた。

許しがたい詭弁

 小泉は解雇4要件に言及した際に、特に「解雇回避努力義務」についての見直しを強調し、再就職支援やリスキリング(新たな分野や職務におけるスキル習得の意味)などを行えば整理解雇が有効になる制度の確立を打ち出した。
 また高齢者の解雇が難しいから若者の正規雇用が難しいとの趣旨の演説も行っている。そもそも高齢者の多くは、再雇用、非正規雇用だ。また就職氷河期世代に非正規雇用が多いのは、父親の小泉純一郎政権の時に製造業派遣の緩和など一連の雇用破壊政策によるものだ。解雇規制の緩和が労働者の利益であるとの詭弁は本当に許しがたい。

デロゲーション

 小泉は、労働時間規制の緩和も打ち出した。現状の労働時間規制が、原則として月45時間が上限になっていることについて次のように述べる。
 「企業からも働く人からも、もっと柔軟に働けるようにしてほしいという切実な声が上がっている」「昭和モデルを前提に構築された令和の今の働き方の多様化に追い付いていない。1人ひとりの人生の選択肢を増やすことで誰もがより自分らしく生き、モチベーション高く働ける社会をつくる。そうすれば人口減少が進むなかでも労働力人口を維持し、生産性があがっていく新しい成長モデルの構築を私にやらせてください」
 そもそも「昭和の時代」は「過労死(karoshi)」が国際語として通用するほどで、今もなお実態は変わらず、より深刻化・悪質化している。
 小泉の背後には、経団連が1月に公表した「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」がある。提言は、労使自治によって労働時間規制のデロゲーション(法の逸脱を認めること)の範囲について大規模な拡大を求めている。
 労働組合を社友会に置き換える攻撃であり、直接のターゲットは労働時間規制を労使自治の名において葬り去ることにある。これが自民党総裁選の争点となったことはけっして偶然ではない。

ちば合同労組ニュース 第172号 2024年11月1日発行より