退職代行サービスから見える若年労働者動向

主張
退職代行サービスから見える若年労働者動向
労働者の団結・共同体の構想を
 約30年間、日本の労働者の賃金は上がっていない。さらにインフレ・物価高騰の状況の中で労働者の意識にも大きな変化が生まれている。
 総務省の統計によると昨年の転職希望者は1007万人と過去最大。806万人だった10年前と比べ25%増。実際に転職したのは328万人で年収が上がったのは3人に1人で35%、1割以上賃金が上がったと言われている(5月16日『日経新聞』)。
 若年労働者を中心に、転職して少しでも条件のよい職に就きたいとの動きが広がっている。
 その一つの象徴が「退職代行サービス」利用の急増だ。
 憲法の「拘束の禁止」「職業選択の自由」から退職の自由は当然で、また民法や労基法にも退職の自由の各種規定がある。つまり労働者が会社に退職の意向を申し出れば退職はできる。
 だが様々な事情から、第三者として労働者と会社の間に入って退職の手続きを行うのが退職代行サービスだ。手数料として2~3万円の費用がかかるが、「今すぐ会社を辞めたい」という労働者の利用が急増している。
 サービス利用の理由は、①上司のハラスメント(33・9%)、②上司が退職を認めない(30・2%)、③サービス残業(24・7%)、④勤務外での仕事(18・7%)、⑤有休が使えない(13%)と続く(退職代行サービス・モームリ調査)。
 利用者の6割が20代でダントツに多い。その半数が入社半年で退職している。
 では退職代行を利用される企業側の傾向はどうか。
 大企業では約2割が退職代行を経験。業種は①サービス業、②製造業、③医療、④営業の順。ブラックな側面を持つ人材派遣会社やチェーン店での利用が多い。
労働者意識の変化
 退職代行が一つのビジネスとなっている現象から、私たち労働組合の側は何を見いだせるだろうか?
 終身雇用・年功序列といった日本型雇用が崩れ、働く意識の大きな変化が起きているのではないか。ブラック企業や高圧的な上司に直面し、辞めたくても辞められない事情の中で必死に「逃れたい」と思っている若者が多いことを示しているのではないか。
 ホワイトカラーが多いとの印象もあるが、数字を見るとエッセンシャルワークが傾向的に多い。公的サービスを担う責任感につけ込まれ安く働かされ、職場に縛り付けられてきた労働者が「もう嫌だ」と怒りの臨界点に達しつつある事を示す現象とも言える。これは保育園の「一斉退職問題」にも通底する。
 若者を低賃金で長時間こき使う日本社会の「常識」を覆す一つの兆候とも取れるのではないか。「人手不足」「売り手市場」の中で若者が早く見切りをつけて、職場をどんどん移動していく現象になっていることも垣間見える。
 ちば合同労組では「劣悪な職場でも辞めずに労働組合をつくって変えよう」と呼びかけてきた。このことは圧倒的に正しいし、これからも変わらない。
 しかし、職場を横断的に移動しつつ生きようとする労働者の意識にも迫りながら団結をつくりだす運動を展開することを模索せねばならないと思う。
ちば合同労組ニュース第170号(2024年9月1日号)より