連載・介護労働の現場から〈23〉
解雇通告
私は休日にはリフレッシュのため山へトレッキングに出かけた。以前は同行者と早目に調整し余裕のある日程が取れたのだが、介護の仕事に就いてからは、先のシフトの予定が立たないし、同行者の土日休みや連休に合わせて、いわゆる「弾丸登山」。
目一杯働いた日の夜に車で地元(千葉県には山がない。日帰りでも行くとしたら、近くても群馬か神奈川、山梨)まで行き、現地で車で仮眠し、早朝から登り始め、夕方、山を下り、夜中に自宅に帰宅、翌朝から仕事という強行になる。
8月に越後の山に登った。中級コース。睡眠不足もあり、下山時には体力の消耗が激しく、濡れた木道で足をすべらしてしまった。滑った拍子に手をついてしまい、手首に痛みが走り、帰る頃には腫れて痛んだ。
その夜は患部を冷やし、翌日、医者に行ったら、骨折していた。全治一か月。
なぜか、ほっとした。
これで一か月休める!
介護の仕事について8か月余り、これまでの人生にないような過酷な経験の毎日。
それを象徴するかのようなこの痛々しい負傷姿。ケガした左腕はL字型にギブスで固定されているが、右手は使えるし、これで一カ月、人間らしい生活を取り戻せる。私はそういう思考回路の人間だ。
でも、管理者は違っていた。
診察のあと、病院から管理者に電話をした。管理者はさして驚きもしないで聴き、「よし、わかった。とりあえず明日来てよ。話があるから」。
ドタキャン欠勤でこれから一カ月、みんなに迷惑かけるなと思った。管理者もこれから一カ月分の私のシフトを埋めるのは大変だな。でも、ケガ人はサッカーではよくあることだし、本社から応援にきてもらえばいいんだし、そんなに気にしなくてもいいか。
病院の帰りに、気になっていたイタリアンレストランに行き、右手だけでコース料理を食べた。
今頃、職場の利用者たちは力石の不味い昼食を食べてるんだろうなと思ったら、急に空しくなった。なんでスタッフも利用者も管理者も、あんなまるで囚われの檻のようなつらい環境に押し込められているのか。
私が望むものはささやかなものだ。働いて生活に困らない給料、休日が決まっていて家族や友人とゆったりと過ごし、職場ではのびのびと仕事を覚え、将来が描ける。利用者は年寄りらしくその存在だけで、尊敬され愛される…。
翌日の昼頃、職場に行き、管理者に会った。管理者は私のギブスを見て、「これじゃ、だめだな。給料が10日締めなので、10日付けで辞めてくれる」と切り出した。
え~! 今日は8日だよ。ウソでしょ!(あらかん)
ちば合同労組ニュース 第57号(2015年4月1日発行)より