連載・介護労働の現場から 〈32〉
いじめの真打ち登場
百瀬さんの顏は蒼白で、その側で二ヤけてる染谷さん。マンガの世界だ。三田村さんと私で百瀬さんを支え、休憩室に連れて行った。
上司を呼ぶべきだと思った。課長は不在だ。村松係長を呼んだ。ちらっと見て「もう、早退したら」と言っただけだった。
三田村さんに「三人で早退しようよ」と提案し、ナースステーションにいた看護師にその旨を伝え、三人で施設を出て、ホテルのカフェに行った。
百瀬さんは少し経つと、生気を取り戻し、堰を切ったようにしゃべり続けた。早退したのが3時で、職場の退社時間の5時を過ぎ、8時くらいまでホテルにいた。
パワハラ? 同じパートの身分だからパワハラではないか。それにしても、職場の壮絶ないじめは、この年になって初めての体験だ。力石どころではない。女のいじめというのはこんなものなのか。
私は次の日、私のプリセプター(新人教育係)と課長に言って、百瀬さんと染谷さんとが一緒にならないようにシフト変更してくれと要求した。
課長は、リーダーシップがあるタイプではないが、百瀬さんのシフトを一部変えてくれた。プリセプターの丸山くんは、前の施設の管理者と同じ体育系大学卒、新卒入社で3年間の現場研修中。2週間に一度、プリセプターとの面談があって、悩みや課題、目標などを話し合う。
「現場の新人教育、おかしいと思わない?」と私が言うと、丸山くんは「僕もそうでした。わけのわからないことでいじわるされるんですよね。介護の世界というのは特殊なんですよね」。
ふん、あんたは3年限りの医療福祉コングロマリットの幹部候補生の身。パートの新人と形式的なプリセプターごっこやってればいいけど、百瀬さんは生活がかかった母子家庭。
「特殊じゃないでしょ。普遍的な人権侵害。上のどこかに報告して、どうにかしてよ」
わからないだろうな、体育会系。
「どうやってするんですか? いじめの細々したことをどうやって? イヤですよ」
やっぱり、役立たず。
百瀬さんは、それでもがんばって仕事を続けた。染谷さん以外のパートは現場でできるだけ百瀬さんをサポートした。でも、1か月を過ぎたころ、突然休むことが多くなった。「起きられない。バスに乗っても途中下車してしまう」とメールがきた。
百瀬さんの代わりに私が染谷さんと同じシフトになることが多かったが、無理難題は丸山くんや課長に助けを求めたりして、どうにかかわした。
しかし、染谷さんには社員の古株、関口さんという仲間がいたのだ。私に対するいじめの加害者は関口さんに移行し、染谷さんはその尻馬に乗るだけ。この構図もアホくさい。(あらかん)
ちば合同労組ニュース 第66号(2016年1月1日発行)より