連載・介護労働の現場から 〈33〉
モラルハラスメント
関口さんは、福祉の専門学校出の新卒でこのホームに就職して、12年のベテランである。村松係長より長い。介護スキルもすごく、元コールセンターの同僚が話していたおむつ替え1分、高速食事介助2分を思い出した。
仕事を時間どおりまわすことが介護だと思っているタイプ。入居者とも長年の顏なじみで、現場を取り仕切っていた。ただ、介護居室の入居者には人気がなく、「また、あのオンナが威張り散らしている」とあからさまに言う入居者もいた。
私は、入職して1か月半、パートだし、場面場面で適切な介護をこなすだけで精いっぱい。これまで小さな施設にいたせいか、一人ひとりの入居者に寄り添う介護が身についている。起床介助やトイレ、入浴の介助も、声掛けしながらゆっくりやる。
関口さんはそれが気に喰わない。入居者にトイレでゆっくり座ってもらっていると、のぞきに来て、「いつまでかかってるの」と言う。私のスローペースを叱責しているのだが、入居者は自分の排泄が遅いと思い、脅えて排便をがまんする。
矢継ぎ早やに思いつきで命令する。「(入居者を昼寝から)起こしをやって」
1分もたたないうちに「(違う入居者を)お風呂に連れてきて」、そして、「まだやってないの!」「優先順位を考えて」
介護度が高いため、二人で介助することになっているので頼むと「私にやれっていうの?」「力が足りない。一人でやるのよ」
「~していいですか?」と許可を求めると、「聞かなきゃわからないの?」と答える。
それに対し、私が「じゃ、やります」と言うと、「○○なのに、なぜ~するの?」と言い、反対に「じゃ、やりません」と言うと、「○○なのに、なぜ~しようとしないの」という。後出しじゃんけんの卑怯なやり口だ。
あと聞こえないふりをして無視する、たえず見張る、大きな声で呼ぶ、怒鳴る、追いかけてくる。休憩時間にこれまでのミスを長々と列挙する。公然と侮辱する。染谷さんと一緒に小さないやがらせを毎日執拗に繰り返す。
メモってきた冒涜の言葉の数々…。「ホント使えない人だね」「頭が悪いんじゃないの」「言い訳しない」「一から十まで聞くな」「どんな育ち方をしたの」「それでも長年主婦やってきたの」「謙虚さが足りない」
こんなこと言われ続けていたら、被害を受けているのではなく、自分が悪いと思い込む。あげく、これまでの自分の感覚が信じられなくなり、解離症状がおきる。百瀬さんは、慢性的抑うつ状態で不眠が続いていて、夜中にメールが来る。こんなアイデンティティ喪失を起こすようないじめ、名前があることを知った。
「モラルハラスメント」
(あらかん)
ちば合同労組ニュース 第67号(2016年2月1日発行)より