連載・介護労働の現場から〈36〉最終回

介護労働の現場から

連載・介護労働の現場から 〈36〉最終回
二度目の失業
最後の日の退社時間がきた。
ロッカーの荷物をまとめていると関口さんが来て「あの文章、私のこと?」と訊いた。
「ご想像におまかせします」と答えたら、「甘いわね。辞めたほうが負け。私なんか2日に1回整体に行って体ボロボロ。そんな仕事よ」と腰痛コルセットをバリバリはずしながら得意げに言う。その腰痛コルセットは勲章? 格闘技おたくか?

施設の外のバス停で冬のきれいな空をみあげた。また失業だ。今度は雇用保険もない。介護ではまともな職場はないのかも…
バスに乗ろうとしたら三田村さんや看護師さんなどがどっと追いかけてきた。「これから、送別会やるよ」
駅の近くの居酒屋に予約がしてあって、すでに百瀬さんがいた。後から来る人もいて総勢10名。歓迎会もしてくれなかったのに、なに、この賑やかさ。私の送別会というより、みんなの慰労会みたいだ。みんなつらい仕事をしてる仲間だからね。
これまでユニオンショップ協定の「御用労組」に訴えた人もあったらしいが、逆に居づらくなるよとやんわりと脅されたという。なんかやりきれない思いが残った。私が辞めてからすぐに、2名のパートが辞めた。
半月後、私は法人本部の役員会に呼ばれて意見を述べた。新幹線とお迎えタクシー、VIP待遇だ。管理職向けに、モラハラが欠勤や退職で直接的な損失があること、有能な人材を流失させ、サービスの低下を招くことを、告発文の内容に付け加えた。
その後、法人として電話やネット対応のハラスメント相談室が創設され、産業医に精神科医が加わった。しかし、これらの専門家の雇い主は法人だ。本当に労働者を守ってくれるかははなはだ疑わしい。御用組合のように問題を覆い隠してしまう危険性大。

n0070_03_01a いまだに百瀬さんは就労不可能状態でメンタルクリニック通い、関口さんはハラスメントの自覚がないまま子育て理由に退職したという。
介護職の離職理由は一般的には低賃金、重労働だと思われているが、離職者へのアンケートなどによると、人間関係や運営に不満というのが一番多い。雇用管理がしっかりしていなくで、あまりにも人手不足になると、現場の人間関係は最悪になる。
介護現場の労働者は、誰もが多少ならず、健康と収入と家族を犠牲にしている。その身で、人の命を預かる仕事への重圧を背負いながら自身のストレスをコントロールできる人間はそう多くない。ストレスのはけ口を新人に向けるのが当たり前の世界だ。
精神障害の労災支給の業種第2位が介護だ(1位は道路貨物運送業)。でもメンタルヘルスを維持するのは実は簡単。一番の特効薬は労働者の連帯なんだよ。
ね!!
(あらかん)

ちば合同労組ニュース 第70号(2016年5月1日発行)より