デジタル賃金払い解禁へ 政府監視の危険性も

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デジタル賃金払い解禁へ

マイナカードと紐づけ政府監視の危険性も

 9月13日の厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で賃金をキャッシュレス決済口座に振り込む「デジタル賃金払い」を解禁する方向が大筋合意されたと報じられた。

ペイペイで賃金

 対象となるのは「ペイペイ」「d払い」「楽天ペイ」など、「〇〇ペイ」と呼ばれるスマホのアプリを活用するQRコード決済を用いた資金移動業者の口座。口座残高は100万円が限度。年度内に必要な省令の改定が行われる予定で、23年春にも開始となる見通し。
 賃金は現金で支払うのが原則だが、労働者の同意があれば銀行口座への振り込みもできる。銀行口座に「〇〇ペイ」が加わることになる。
 確かに賃金が直接振り込まれればチャージの手間は省かれ、銀行より振込手数料が低いので、企業にとっては経費節減にもなる。
 だがペイペイなどのQRコード決済の割合は全体の2%に満たず、知り合いの何人かに尋ねたが「賃金全額を〇〇ペイに振り込まれるのは本当に困惑する」と言われた。
 成長戦略で「できるだけ早期の制度化を図る」と盛り込まれ、20年8月から審議が続いており、業者が破綻した場合の補償などで紛糾し審議が中断したが、上限を設け、業者に保証金を供託させ、損害を補償する仕組みを整えることが提案され、最終的に連合も賛成に回ったようだ。
 しかし利用者の個人情報の管理やセキュリティー対策、不正利用された場合の補償など不安の声は多い。
 企業はデジタル賃金払いを行う場合、対象となる労働者の範囲や利用業者などについて、過半数代表者や労働組合と協定を結び、労働者が希望あるいは同意した場合のみ、賃金の全額もしくは一部を「〇〇ペイ」に振り込む。
 企業は銀行口座を介さずにデジタルマネーで賃金を振り込むことができるようになる。デジタル払いは、一昨年から個人事業主への報酬支払いや経費精算でも使われている。「銀行口座を開設できない外国人労働者が給与を受け取りやすく」とか「日常生活での決済や送金がよりスムーズになる」と宣伝も始まっている。

賃金の前払い

 「賃金の前払い」が広がることも予想される。
 これは「すでに働いた自分の賃金を前払いするだけ」という理屈で、その日までに働いた賃金をスマホアプリで前払いで引き出すことが可能な仕組みとして数年前から始まっている。例えばパチンコで負けて手持ちがなくなっても、スマホがあれば、近くのコンビニなどで「その日までの賃金の前払い」を受けることができる。
 「楽天早トク給与」「即払いサービス」「ペイミー」など多数の業者が参入している。すでに働いた分の賃金をスマホアプリを使用して業者が一時的に立て替えてセブン銀行などから引き出す仕組みだ。
 しかし手数料も高く(3~6%で年率換算すれば消費者金融以上)、新手の貧困ビジネスでもある。賃金の前払いを受ければ、当然にも賃金支給日の額は減り、また前借りしなければならなくなる。かつて炭鉱や山奥の工事現場で食住費から酒代のツケまですべて天引きされたタコ部屋が、スマホアプリを利用して現代に甦っている。

賃金支払い5原則

 ここで労働基準法の賃金支払いの5原則を確認したい。
 労働基準法第24条には「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない……」「2 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」とある。
 賃金支払いの5原則は「①通貨(日本円)で、②全額を、③毎月1回以上、④一定期日に、⑤直接労働者に支払う」です。
 現在は、銀行口座への振込による支給が多いですが、これは、労働基準法施行規則により「労働者の同意が得られれば、金融機関の預貯金口座に振り込んでもよい」とされている。
 「〇〇ペイ」を扱う業者は「資金移動業者」で金融機関には該当しないため例外規定の対象とならないので、これを規制緩和する。
 ちなみに賃金の前払いについては、労働基準法25条に規定があり、出産・疾病・災害・結婚・死亡など「非常の場合」に「支払期日前であっても既往の労働に対する賃金を支払わなければならない」とあります。ギャンブルや借金は該当しないと解釈されています。
 何よりマイナンバーカードに紐づけられ政府に監視される危険性が気になる。

 ちば合同労組ニュース 第148号 2022年11月1日発行より