介護労働の現場から〈18〉とうとう腰痛

介護労働の現場から〈18〉
2014年11月01日

とうとう腰痛

井村さんは入居2カ月過ぎるとガンの痛みが強くなり食が進まなくなった。家族は再三の連絡にも応じず、やっと来所したかと思うと「(痛いのは)寝違えたんでしょ」「こんど寿司食いに行こうか」と能天気。寝違えただけで体全体痛くはならない、ミキサーでムース状にしてやっと数口の病人が寿司なんて喰えるかと言い返したいところをぐっとこらえて説得し、病院診察をお願いする。
これまでにスタッフは井村さんの精神状態の回復に合わせながら、ベッドで寝たきりだった井村さんを車いすに乗せる、トイレ、食堂の椅子に移動する試みを重ねてきた。痛みの少ない日は浴槽の入浴もした。井村さん自身も本来の明るくて快活なところを発揮し、みんなの人気者になり、得意の美空ひばりをカラオケに合わせて歌い、踊りの振り付けを上半身だけで披露した。
でも、家族はこれまで面会に1回30分足らず来所しただけで、そのときの井村さんしか知らない。もう治ってきたと思っている。しかし毎日看てきたスタッフが医療が必要だと判断しているのだ。
責任者が「看取り介護はやっていませんので」とお願いして、やっと病院に行けることになった。井村さんは帰ってこなかった。入院し1週間で亡くなった。家族に対する3か月分50万足らずの入所費用の回収はなんと1年かかったそうだ。未払いで赤字になると責任者はスタッフに経費節約宣言、光熱費、ティッシュや、調味料の量などをうるさく言ったり、サービス残業させようとする。
そのころ私は、介護職経験6カ月にして腰から腿にかけて痛くなり、休んでも回復せず、身体介護がきつくなった。大柄な井村さんの移動の介助が原因だと思われた。整形外科に行くと、「坐骨神経痛」「ヘルニア」と診断が定まらない。医者は加齢や介護職などを理由にして詳しく診察しようとしない。力石は「誰だって腰痛持ちだよ、この仕事は。大丈夫、大丈夫」と聞き流す。でも痛いのだ。寝ていても痛い。介護職というのは、自分の身体までも犠牲にして尽くさなければならないのか。辞めようこんな仕事と思ったが、待てよ、仕事で腰を痛めたのだから、労災ではないのか?と思った。
医者に労災の診断書を依頼したら、「介護など重量物を扱う仕事で、徐々に腰を痛めた場合というのは、事件性がないから労災は認められないみたいだよ」と言う。事件性? まるで警察が市民の訴えを却下するような…冷めた物言い。「じゃ、たとえばどのような事件性があればいいの?」。
若い医者だった。
「う~ん、例えば腰痛だと、重量物を持ち上げたとたん、ぎっくり腰になったとかだと労災は認められやすいです。そもそも、厚労省は重量物を扱う場合は成人男性は体重の40%、女性はさらに男性の60%という指針を出してますからね。それだと対象20㌔以上でもう重量オーバーですからね。」
そうなのか。いいね、若い医者。
…このあと続く。
(あらかん)
(ちば合同労組ニュース52号から)