介護労働の現場から〈19〉腰痛は労災でしょ

介護労働の現場から〈19〉
2014年12月01日

腰痛は労災でしょ

私に対する医者の診察時間は20分を過ぎて看護師たちがイラついているのがわかった。「何か事件はなかったですか? 腰をいためるような」と医者が言い出した。
私は大柄な井村さんへの介助を思い出した。ベッドから車いすへの移乗、車いすから椅子への移乗などは抱きかかえて持ち上げる。介護用ベッドでない低床型ベッドでのおむつ交換や着替えは前かがみの中腰状態。家庭用浴槽での入浴介助は、浴槽を跨いでもらうのに、利用者の体を支えながら持ち上げる。
「そういえば、浴槽に入浴してもらうときに、私が浴槽に入り、浴槽の外に立っている利用者を支えて一足ずつ浴槽に入ってもらうんです。そのときに、腰がクキっと…」
「それは事件です。日時憶えていますか?」
井村さんが最初に風呂に入った日、私は不安だったけど、1人で最初から最後まで入浴介助した。そのときに、腰も痛かったが、足の小指を思い切りドアにぶつけて痛くて、1週間も痛みが続いた。
足指のレントゲンも撮ることになった。骨折していた。医者はぎっくり腰と骨折で労災の診断書を書いてくれたので、それを管理者に見せた。「労災、いいよ。本社に訊いてみるね」とすんなりOK。
ところが力石は、「ほぉ~、ローサイ、介護の世界ではそんなのきいたことないね」と鼻で笑う。彼は、「介護の世界では」というのが口癖だ。昔の姑みたいなやつで、私が苦労していても、仕事はわざと教えない。自分はサボるくせに、私には「やらなきゃだめだよ。仕事でしょ」と押し付ける。
介護は重労働だ。動かない人を抱かえ、持ち上げ、支える。物だったら持ちきれなければ手を離せばすむが、人だからケガをさせてはいけないので、自分が極限まで無理をする。24時間不規則労働による睡眠障害、結核や肝炎などの感染なども労災だろう。
しかし、使命感ばかり強調されて、職場の安全衛生についてはノーマーク、医者が言っていた重量物取扱いも法的拘束力がない。建設や運輸では重量物は機械が取扱う。介護施設では介護機器は金がかかるし効率が悪いと導入が進んでいない。

でも介護業界、いいかげんに目を覚ませ。介護機器をケチって労働者が身体を壊し、どんどん辞めていく。リクルートコストが嵩み、未熟なパートや派遣だらけの現場、その「カネ」「効率」の悪さ。業界全体、経営の近代化が必要だ。
労災は本社の社長決裁でOK、ただ手続きは自分でやれということなので、労基署に行く。受け付けてくれて、後に職場へ電話で事情聴取があり、労災は許可された。
(あらかん)
(ちば合同労組ニュース53号から)