介護労働の現場から〈20〉独り労組

介護労働の現場から〈20〉
2015年01月01日

独り労組

私が腰痛で休んだのは一日だけで労災は医療費に対して支払われた。
排せつや入浴、移乗などの身体介護ができなくなり、料理や掃除、洗濯、レクレーションなどの仕事に専従した。他のスタッフは私の分まできつい身体介護をこなしてくれた。
私が「悪いね」と言うと、「あらかんさんのおかげで、定時に帰れるようになったし、休憩取れるようになったし、健康保険や厚生年金はいれたし、感謝しているよ」という。有り難かった。
「労組委員長」というニックネームがついた。みんなが労働条件のことで私に相談してくるからだ。
なぜ、直接、責任者に言わないのか? 経営者に睨まれる、やめさせられるのがこわい…と言う人もいた。だったら、みんなで言えばいいのに。
いままで労働組合には縁がなく、労働者で連帯することより、労働者間で足の引っ張り合いをし、いじめられるという職場を経験してきた人が多かった。
不満なことは会社に言って改善しようとしないで、会社を去る。介護の世界は、数日、数か月でやめてしまう人が多い。
そうして渡り鳥みたいに横断的に職場を転々とする。介護業界は慢性人手不足で、次の職場はすぐに見つかるからだ。
あと、連帯をこばむのは、24時間変動シフト制、組む人が毎日入れ替わりで、しかも超過密勤務。労働者同士、休憩時間や勤務後にグチをこぼす時間も体力もない。新人が入ってもシフトが合わず、何か月も紹介されないうちに退職しちゃったなんて、日常茶飯事。
同じ職場でも、それぞれが別々に契約している個人事業主のようなもので、分断され仲間意識もないので、経営者に思うように支配される。労働時間、社会保険、有給休暇などの当然の権利までも主張しなければ、経営者は無視する。
今時、タイムカードは手書き、毎日、定時時間を記入させ、しかも給与計算をまちがっている。それでもみんなはこわくて「(支給額は)少ないよ」と言えない。
私は、ゼロから一つずつ権利を獲得していった。責任者に言い、それで改善がなければ本社に電話をかけた。よりどころは「労働基準法」。そして、シフトが合ったスタッフには「健康保険入れるよ」「有給取れるよ」と言いふらした。
それで、みんなが恐る恐る「あらかんさんが言ってましたけど…」と責任者に申し出るのだ。言えない人は私が代わりに言う。
なんて、手間のかかる。でも、そうやって職場の労働条件が確立すれば、みんなの表情が明るくなり、仲間意識ができる。スタッフが安定していれば、利用者に質の高い介護を提供することができる。労働組合がないのなら、独り労組でもいいか。
(あらかん)
(ちば合同労組ニュース54号から)