団体交渉の主体・対象事項・手続

実践的に考える職場と労働法 連載・職場と労働法

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団体交渉の主体・対象事項・手続

 

上部団体や下部組織にも団体交渉権がある場合も

 

団体交渉の主体

 

 団体交渉の当事者は、団体交渉を自らの名において遂行し、その成果としての労働協約の当事者となる者です。労働者側は、単位労働組合および連合団体(上部団体)が当事者となります。
 団体交渉の労働者側当事者として、上部団体については、単なる連絡協議機関に過ぎないものは団体交渉権はありません。しかし、労働組合法上の労働組合の定義に該当し、かつ加盟組合に対して統制力を持つものは、上部団体もその団体固有の団体交渉権を持ちます。
 特定の企業に関係する交渉事項など上部団体と企業別組合などの単組が競合して団体交渉権を持つ場合もありますが、通常は、上部団体がその傘下の各企業別組合と連名で各使用者に対し交渉を申し入れる形で行使されます。
 競合的に交渉の申し入れがあった場合は、両者で調整・統一されるまで使用者は一時的に交渉を拒否できるとされます。

 

上部団体は?

 

 単位組合については、労働組合法は排他的交渉代表制を採用していませんので、いわゆる少数組合といえども団体交渉権を有しており、交渉当事者となります。少数派組合や、地域合同労組などが自らの組合員である従業員に関し、当該企業に対し団体交渉を要求することができます。
 ときどき使用者は、少数組合との交渉について、多数組合との「唯一交渉団体条項」が存在することを理由に拒否することがありますが、そのような条項は他の組合の団体交渉権を侵害するものとして法律的には無効であり、使用者はそうした条項を理由に他の組合の団体交渉申入れを拒否することはできません。
 労働組合が分裂した場合なども使用者は両組合それぞれと団体交渉を行う義務があります。

 

下部組織はどうか

 

 単位労働組合の内部における地方本部や支部などの下部組織であっても、それ自体として一個の労働組合としての要件を備える規約や組織を備えている場合には、当該下部組織に限定される事項については下部組織の団体交渉権は認められます。しかし、この場合であっても、その組合の内部自治とそれに基づく中央本部等の統制に服することになります。
 労働組合としての実体(独自の規約、組織、財政基盤)を持たない職場組織はそれ自身の団体交渉権は持ちません。ただし、組合中央より一定事項につき団体交渉遂行の委任(交渉権限の委任)を受けた場合には団体交渉に従事することができます。
 もっとも、交渉が不調になった場合などに独自の判断で争議行為を行うなどの権限はありません。このあたりは組合自治の問題になります。
 労働組合の組織を持たない労働者の集団についても、代表者を選んで交渉の体制を整えれば、憲法28条の団体交渉権の保護は受けますが、労働組合法の不当労働行為救済規定の保護は受けることができないとされています。

 

使用者側の当事者

 

 使用者側においては、団体交渉の当事者となり、労働協約の締結当事者は、使用者団体または使用者です。
 団体交渉の当事者となる使用者団体は、団体構成員のために統一的に団体交渉を行い、かつ労働協約を締結しうるものとして「定款」に明記されていることが必要です。
 個々の使用者は、個人企業の場合は当該個人、法人企業の場合は当該法人となります。それらの企業の一部組織(事業所・支社)や機関(取締役・事業所長など)は使用者に該当しません。

 

交渉担当者

 

 労働組合の交渉担当者としては、労組法は、労働組合の代表者および労働組合の委任を受けた者が交渉権限を持つと規定します。妥結権限や協約締結権限は規約で交渉権限と区別されているのが通例です。代表者といえども当然には妥結や協約締結はできず、一定の手続きが必要です。
 労働組合から交渉権限を受けることができる者の範囲については格別の制限はありません。当該組合の役員や組合員だけでなく、他の組合の役員、地域の労働団体の役員、弁護士などいかなる者でもOKです。しかし団体としての他労組や上部団体などへの委任はできません。
 使用者側の担当者としては、個人企業における個人(事業主)、会社企業における代表者(代表取締役など)が団体交渉の担当者となります。代表者以外の者(労務担当役員、人事部長、工場長、事業所長)については当該企業組織内での管理・決定権限の配分に応じて団体交渉権限がどのレベルの管理者にどう配分されているかによります。

 ちば合同労組ニュース 第126号 2021年1月1日発行より