実践的に考える職場と労働法 争議行為と賃金について

連載・職場と労働法

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争議行為と賃金について

スト参加でマイナス人事評価は不当労働行為

争議参加者の賃金

 ストライキに参加した労働者は、スト期間は労務の提供を停止したのですから、この期間中の賃金請求権はないと考えるのが原則です。
 賃金請求権は労務の給付と対価関係にあり、労務の給付が労働者自身の意思によってなされない場合は、反対給付である賃金も支払われないというのが原則です。
 これがいわゆる「ノーワーク・ノーペイの原則」です。憲法28条「争議権の保障」も、この原則については特に否定・修正はしていません。
 ただし、純然たる月給制や出来高給制の場合はその定めに従うべきであって必ずしもこの原則通りではなく、ノーワーク・ノーペイは契約解釈上の原則なのです。

賃金カットの範囲

 ノーワーク・ノーペイ原則から、使用者は、ストライキによる不就労中の賃金請求権が発生しなかったものとしてスト後の賃金支払日において予定されていた賃金額からスト期間中の賃金額を控除した支払いを行うことになります。
 問題はこの控除の賃金の範囲です。例えば家族手当や住宅手当など、具体的な労務に対応しない生活補助給的な諸手当について控除できるかという問題が昔からあります。
 これについては様々な論争もありましたが、判例としては、賃金カットの範囲は「当該労働協約等の定め又は労働慣行の趣旨に照らし個別的に判断するのが相当」としています。
 ようするにストライキによる賃金カットの範囲については、それに関する労働協約や就業規則の定め、従来の慣行、そして通常の欠勤・遅刻・早退に関する賃金カットの取り扱いなどを参考として、ノーワーク・ノーペイ原則の例外として労働契約上カットの対象から除外されるかどうかで判断するということです。

一時金カット問題

 個々の労働者につき一時金の額を算出する際に、その算式上の一係数として用いられる当該対象期間の出勤率を算定する上で、スト参加日数を欠勤日数の扱いとすることはどうか。
 当該出勤率が支給対象期間中の欠勤の日数に応じて機械的に定められており、スト期間中を欠勤扱いしているに過ぎないと認められる場合には、ノーワーク・ノーペイ原則の適用として適法とされています。
 これに対して、機械的な出勤率上の欠勤扱いではなく、スト参加を一時金算出の上で勤務成績評価においてマイナス評価とすることは、正当な争議行為を理由とする不利益取り扱いとなります。

怠業と賃金

 スローダウンや労務の一部拒否などの怠業の場合にも、労働者は、出来高給ないしは歩合給の場合を除いては、契約上要求される労務を履行しなかった割合で賃金請求権を取得しないとされます(順法闘争はまた別問題です)。
 その割合については、平常時になすべき労務の質・量に照らしてどの程度の不履行があったかを具体的に算出すべきとされます。裁判例は、この点については、かなり精密な算定を要求しています。
 出張・外勤拒否闘争のように、使用者が命ずる種類の労務を拒否し、使用者が是認しない種類の業務に従事する争議行為の場合について、これも争いが多々ありますが、労働契約上使用者が出張・外勤命令を発する権限を有していれば、そのような命令が出された以上、内勤業務は〝債務の本旨〟に従った労務の提供とはいえないとされます。
 使用者がそれを受領したと認められない限り、使用者は上記命令の対象期間中の賃金をストの場合と同様にカットできるとされています。

争議行為不参加者

 部分スト(ある組合の一部の組合員で実施)や一部スト(労働者の一部を組織する組合が実施するスト)の場合に、その結果就労しえなかったスト不参加者の賃金請求権についてはどうか。
 使用者が、スト不参加者の労務提供を受領し、自己の指揮監督下に置いた場合は当然に賃金請求権が発生します。
 問題は、①ストによって業務遂行が困難となり使用者がスト不参加者の就労を拒否した場合、②使用者に労務受領の意思があるがピケなどで労務の提供がなしえない場合などです。
 ①の場合は、使用者の主観的意思によって受領を拒否したと言える場合には、使用者の責めに帰す問題として賃金請求権が発生します。部分ストや一部ストの結果、スト不参加者の仕事がなくなった場合には、論争や裁判上の争いもたくさんありますが、賃金請求権が否定されるケースが多いです。
 ②のピケ行為による就労不能も賃金請求権を否定する裁判例があります。
ちば合同労組ニュース 第133号 2021年8月1日発行より