キューポラのある街

労働映画

映画紹介『キューポラのある街』

 荒川鉄橋を渡る電車の窓から〈キューポラ〉という独特の煙突が並ぶ鋳物の街・埼玉県川口市の全景から映画は始まる。吉永小百合主演の『キューポラのある街』。

かなりステレオタイプなストーリーではある。しかしあの時代の現実や理想、機微まで含めて見事に描いた映画だ。現代を同じように1本の映画で表現するのは難しい。
中学3年の主人公ジュンは鋳物職人の長女。明るく前向きで高校進学を目指す。しかし父が工場を解雇され家計は火の車に。高校の入学費用を貯めようとパチンコ屋でアルバイトも始める。職人気質の父親はようやく再就職するも近代化された工場について行けずに仕事を辞めてしまう……
貧困や親子関係、労働組合や民族、友情など様々なエピソードを99分の映画に収める。物語もよく作り込まれているが、貨物列車の通過など、横長の画面に映り込む町並みや人びとの動きなど細かいところが良い。映画館で観たい。

織り込まれたエピソードもいい。父親が解雇される場面。同じ工場で働く隣家の青年が労働組合で労災や退職金を掛け合う。「職人がアカの世話になるわけにはいかない」と拒否する父親。このやりとりも面白い。職人気質の年配労働者と組合の話をする若者。いまの職場では、こういう対比では物語にならないかも。「ダボハゼの子どもはダボハゼ」「中学出たら働くんだぞ」と怒鳴り散らす父親と主人公姉弟との口論。在日朝鮮人姉弟との友情……

主人公の弟が牛乳泥棒を配達少年に見つかり「病気の母ちゃんの薬が買えない」と抗議され神妙になるシーンなど取り上げたいエピソードはありますが、この辺りで。

ちば合同労組ニュース 第67号(2016年2月1日発行)より