フラガール

労働映画

映画紹介『フラガール』

昭和40年、大幅な規模縮小に追い込まれた福島県いわき市の常磐炭鉱。炭鉱会社は2000人の整理解雇を提案。石炭産業に代わる事業として温泉とフランダンスショーを見せる常磐ハワイアンセンターを計画。炭鉱で働く人びとや町の多くは反対し、支持を得られないまま事業計画が進む。
家出同然でフラガールを目指す蒼井優が演じる主人公。組合の婦人部長で反対派の急先鋒だった母親(富司純子)が偶然に娘の練習姿を見て賛成に回る。「仕事っていうのは、暗い穴の中、奥底に入って、苦しいとかきついとか、そういうことを我慢して忍耐して、黙々とするものと思っていたけど、美しいダンスをみんなに見せて、それで、みんなを喜ばせるっていう仕事があってもよいんじゃないかと思った」
主人公の親友の早苗一家が印象深い。母親不在で幼い弟や妹たちの面倒を見る早苗が兄弟を前にフラダンスを披露しているところに、運悪く解雇通告を受けた父親が帰ってくる。父親に殴られ長い髪をハサミで切られる早苗。これを知った松雪泰子演じる平山先生が銭湯の男湯に殴り込みの大立ち回り。父親は解雇通告に「30年も勤めて紙切れ一枚かよ」とつぶやき、早苗や兄弟たちと共に夕張炭鉱に向かう……
炭鉱閉鎖の現実と苦悩に立ち向かった町おこし事業の成功物語としては良くできた映画なのだと思う。しかし、富司純子の台詞には複雑な気持ちがずっと残った。早苗の父親の感傷は酒と家族への暴力にしか行かないのか。英国の『ブラス』や『パレードにようこそ』のような連帯感と愛しみのある映画にはならないのだろうか。主人公の兄で、豊川悦司の炭坑夫は良かった。

ちば合同労組ニュース 第76号(2016年11月1日発行)より