家族を想うとき

労働映画

映画紹介『家族を想うとき』

 映画界からの引退を表明したケン・ローチ監督が自身の発言を撤回してまで完成させた作品。いま企業に雇用されることなく単発の仕事を請け負う働き方や、そうした働き方で形成される経済形態(ギグ・エコノミー)が浸透している。この時代背景のなかで、イギリスを舞台に、現代の働き方と家族の姿を描く。
 どこにでもあるようなイギリスの労働者階級の家庭。父リッキーは建設業の下働きとして安い賃金で雇われてきたが、よりよい報酬とやりがいを求めてフランチャイズの宅配ドライバーとして働く。母アビーはパートタイムの介護福祉士として時間外も働く。家にいられないほど懸命に働く両親から息子セブと娘ジェーンは孤立し、寂しさを募らせていく。
 働けば働くほど一緒に過ごす時間もなく、絆の強かったはずの家族はバラバラになっていく。到来しうる未来社会へのケンローチの強烈な危機感がこれでもかと伝わってくる。そして、労働や家族の意味を問いかける。
 ネタバレになるのでこれ以上は展開しないが、「こんな未来が普通になるのか?」と誰もが驚くだろう。しかし、飲食店の宅配代行サービス「ウーバーイーツ」や24時間365日営業するコンビニ、アマゾンやZOZOなどのIT化された巨大倉庫を使ったネット商法……。現在の日本でもギグエコノミーは私たちにスピード感をもって迫ってきている。
 この映画に労働組合の姿はない。「労組なき社会」という言葉を考える上でも、この映画は見ておくべきだろう。

合同労組ニュース 第114号 2020年01月1日発行より