希望の灯り

労働映画

映画紹介『希望の灯り』

 登場人物の口数の少なさ、日本映画とは違う外国の絵葉書のような映像の色彩など、巧みな演出が効果的な魅力を放っている。原題は『通路にて』。このタイトルの方がしっくりくる労働者の世界を描いたすぐれた作品。
 舞台は旧東独ライプツィヒ近郊の巨大スーパーマーケット。27歳の無口な青年クリスティアンは在庫管理係として働くことに。教育係に指名されたブルーノは職場の諸作法やフォークリフトの運転を教える。少年院帰りの青年は不器用で会話も苦手、フォークの操作も覚束ない。だが周りは静かに穏やかに待つ。遅刻を厳しく叱るが「今回は報告しない」。
 東独時代、スーパーがあった場所にはトラックの配送センターがあり、ブルーノたちは大型トラックの運転手だった。ところが仲間たちの多くはスーパーで商品を黙々と並べる毎日。ライプツィヒは工業都市として栄えた東独第2の街だったが、壁崩壊後、地元の産業は衰退し、代わって自動車やIT企業が栄える。経済格差は拡大し、物価が上がり、元の住民は社会から置き去りにされているのだ。
 壁崩壊後に仕事を失ったブルーノたちは出直すパワーがもうない。大半の人びとは孤独感や疎外感に苦しみながらも、誰を責せめるわけでもなく、時々仲間と酒を飲んで昔を懐かしむ。そんな彼らが実に節度ある親切な態度でクリスティアンに接するのだ。多くは語らないが何かが伝わってくる。現代の日本社会を鋭くエグってくる感覚を持った。
 クリスティアンはお菓子担当の年上女性のマリオンに惹かれる。2人は休憩室や商品棚が並ぶ通路で言葉を交わし距離を縮めてゆく。恋愛映画としても悪くない。

ちば合同労組ニュース 第115号 2020年02月1日発行より