幸せなひとりぼっち

労働映画

映画紹介『幸せなひとりぼっち』

 2015年公開のスウェーデン映画。今年一番の印象に残った映画です。コメディタッチなのですが実に感動的な作品です。観ててシンドイ場面もありますが、お薦め。
 妻ソーニャを半年前に亡くしたオーヴェは、鉄道操車場で働く59歳の整備工。いつも不機嫌かつ几帳面で口うるさい偏屈なオヤジ。毎朝、団地を巡回してゴミの出し方や犬の散歩、車の駐車位置などをチェック。店で気に入らないことがあれば「上司を出せ」と怒鳴るクレーマーオヤジだ。
 そんなオーヴェが43年勤めた鉄道局を解雇される。孤独感に苛まされ、生きる希望を失った彼は自殺を図る。首吊り・排ガス・飛び込み・猟銃…。しかし向かいに越してきたイラン人女性パルヴァネとその家族の邪魔が入りうまくいかない。悪態を付きながらも困っているパルヴァネ一家をなにかと手助けするオーヴェ。

 彼の「領域」にズカズカと踏み込んでくる隣人の存在を最初は疎ましく思うのだが次第に心境の変化が生まれる。そしてオーヴェの過去が次第に明らかに。同じく鉄道員だった父親との思い出、口下手ですべてがうまくいかなかった彼の唯一無二の理解者となったソーニャとの出会いと結婚、そして突然の事故…彼が心を閉ざしたいきさつが明らかになる。
 幼い頃に拾った財布を交番に届けた帰り道、父は「何事も正直が一番だ。だが正直になるには後押しがいる。時折ね」と話す。この言葉が彼の魂を回復させる伏線となる。親友との仲たがいの原因となったサーブ(労働者階級を象徴)とボルボ(上流階級?)の歴代車種の競演も面白く、日独仏車も重要な演出アイテムとして出てくる。

 ちば合同労組ニュース 第131号 2021年6月1日発行より