『ジェネレーション・レフト』

本の紹介

書籍紹介ジェネレーション・レフト

左傾化する世界の若者を分析

  「ジェネレーション・レフト」という言葉が注目を集めている。海外の若者が左傾化していることを指す言葉だ。8月に同名の書籍が出版され、話題になっている。
 英国の政治理論家キア・ミルバーンという人物の著書。近年、英労働党コービンや米民主党サンダースの躍進は、80~90年代半ば生まれの「ミレニアム世代」「Z世代」が彼らの左派的な主張に共感を深めていることが大きいと分析する。
 ミレニアム世代とは80年代序盤から90年代半ばまでに生まれ、2000年(ミレニアム)前後に社会進出したとのニュアンス。Z世代は90年代後半から00年代生まれで、生まれた時からインターネットが利用可能であったという意味で「真のデジタルネイティブ世代」と言われる。
 就職難や低賃金、貧困と格差、気候危機など政治や社会の諸問題に対し若者世代が「今の社会のあり方はおかしい」「自分たちでより良い未来を作ろう」とシステムチェンジを求めて世界中で声を上げ、積極的な行動を起こしていると著者は指摘する。
 スウェーデンの1人の高校生グレタ・トゥンベリ(写真)から世界に広がった「気候変動のためのストライキ」、米国での黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える「BLM(ブラック・ライブズ・マター)」などが好例とされる。
 若者世代が80歳前後の最古参「社会主義者」を担ぎ上げる構図も〝世代論〟として興味深い。いずれにせよ、Z世代やミレニアム世代が運動や組織に新たな息吹を引き込む現象が起きているとの指摘は、私たちとしても真剣に考慮しなければならない。

政治プロジェクト

 米国のZ世代は、莫大な戦費や戦死者を伴った戦争や長期不況などの共通経験や感覚があり、教育や福祉の充実を求める声には実感を伴う。、それが新自由主義への異議申し立てとなっている。
 著書では、それは受動的な社会的事件に留まらず、能動的・積極的な行動に変わっていく様子が描かれる。著者らは、積極的な物語やキャンペーンの必要性を説き、「政治プロジェクト」を重視する。つまり「運動」と出会うことで状況を変えていけると実感し、能動的に行動することの実感が得られるはずだ、と。

新たな模索と努力

 日本ではまだ少し違う様子にも思える。若者の運動参加は少数に留まり、むしろ保守化していると思われ、「ゆとり世代」と揶揄される。しかし、高度経済成長やバブルの時代を知らず新自由主義しか知らない若者には違う世界が見えているのかもしれない。今後、コロナが若者の意識と行動力にどう反映するのか?
 いずれにせよ、こうした現象がなぜ世界的に起きるのか? それは何を目指し、どう発展していくのか? 新自由主義のアンチの物語をどうつくるのか? 運動や組織の伝統をどう継承・発展させ、持続性・大衆性をどう作り出していくのか。そうした努力が世界で始まっている。私たちも問われている。

ちば合同労組ニュース 第137号 2021年12月1日発行より