苦役列車

労働映画

映画紹介『苦役列車』

 2~3年前にDVDで観た。「中途半端に陳腐な青春ムービー」との原作者・西村賢太の酷評をネットで見かけて原作も読んでみた。言うほど悪くない映画だと思うけど…。私小説の映画化は難しい。主人公の北町貫多を演じた森山未來も、高良健吾や前田敦子も思いのほか良かった。
自分も、ごく短期間だが、晴海埠頭(東京都中央区)で日雇い労働者として倉庫作業をやっていたことがある。荷役作業や休憩時間、喫煙シーンなど、描かれた光景は活字だけでも頭に思い浮かぶ。
ただ自分は、西村が〝苦役列車〟と表現する境遇や必然性のもとで働いたわけではない。どちらかと言えば高良健吾が演じた日下部のような一過的な存在でしかない。だから、どうにも処理できない自尊心と劣等感、そしてその枠からは簡単に踏み出せない因縁と怠惰さがないまぜになり、世のすべてを恨むような感覚は、分かるといえばウソになる。
映画の筋はこんな感じ。1986年、北町貫多、19歳。父親が犯した性犯罪により一家離散。中学卒業以来、日雇い人足仕事でその日暮らし。楽しみは読書、稼いだ金はほぼ酒と風俗。ある日、移動バスで専門学校生の日下部に声をかけられ、初めて友達といえる存在が……やがて日下部から交友を拒絶され、ふて腐れた態度の仕事でケンカし、クビに。
ささいなことで周りへの優越感や嫉み、卑屈。日下部に対する嫉妬や羨望。小説ではダダ漏れな感じで書かれている。ちょっとばかり古風な文体で書かれているのが成功している。今時の文体ならただ嫌な感じになったかもしれない。映画も小説もお薦めです。

ば合同労組ニュース 第78号(2017年1月1発行)より