職場と労働法 労働協約はどのような内容のものか

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労働協約はどのような内容のものか

 

「覚書」「議事確認書」も労働協約として成立

 

労働協約の内容

 

 今回は労働協約の内容を考えます。労働組合法は、労働協約の内容について「労働条件その他」と表現しています。①労働条件その他の労働者の待遇などについての諸規定(①は労働組合法上の効力によって協約に反する就業規則や労働契約は無効となり協約の内容に上書きされる)に加え、②労働組合と使用者・使用者団体間の団体的労使関係に関する諸ルール(組合員の範囲、組合活動への便宜供与やそのルール、団体交渉の手続き、労使協議制や苦情処理手続き、争議行為の手続きや制限など)が想定されています(②は当事者同士の約束・契約として効力を持つ)。
 労働組合法は、法的効力を与える労働協約の内容としては、個別的労働関係または団体的労使関係に関連していることが必要となります。政治問題や一般経済問題に関する約束事は労働協約としての法的効力はないとされます。
 「工場移転を5年間行わない」「新しい機械の導入を断念する」「業務外注化を行わない」などの協定は労働条件と関連しますが、その効力にはいわゆる債務的効力にとどまるとされています。

 

協約事項の種類

 

 厚生労働省の調査(労働協約等実態調査)によると労働協約化されている事項には次のようなものがあります。

 

 【賃金】については、基本給の体系・金額、諸手当の種類・金額、時間外割増賃金率、賞与・一時金、賃金の最低額、初任給、退職給付の一時金・年金、昇給といった事項。
 【労働時間・休日・休暇】は、所定労働時間、所定外労働時間、変形・みなし労働時間制、週休2日制、週休以外の年間休日、連続休暇、年次有給休暇、育児休業制度、介護休業制度、看護休業制度など。
 【福利厚生】は、業務上災害の法定外補償、住宅管理制度、【安全衛生】は、健康診断、安全衛生教育、健康情報の取り扱いといった事項。
 【人事等】は、昇格、解雇、懲戒処分、配置転換、出向、定年制、再雇用または勤務延長、海外勤務、教育訓練といった事項で、協約化される割合は、解雇、定年制、懲戒処分、配転、出向の順で割合が高いようです。
 【経営等】に関する事項としては、新技術の導入に伴う事前協議、新分野への進出に伴う事前協議、事業の縮小・廃止に伴う事前協議、事務所の移転に伴う事前協議、事業所の海外移転等に伴う事前協議といった事項。これらが協約化されるケースは少ないようですが、規定化されている場合はその多くが労働協約となっているのが特徴です。
 【組合組織】に関しては、非組合員の範囲、ユニオンショップ、唯一交渉団体といった事項、【組合活動】については、勤務時間中の組合活動、団体交渉での交渉事項、交渉の手続き・運営、交渉委任禁止といった事項。【争議行為】は、争議中の遵守事項(スキャップ=代替要員の雇入れ禁止等)が協約化されています。

 

労働協約の様式

 

 労働協約は書面に作成され、署名または記名押印が必要です。労働協約には法律上の特別の効力が与えられるので、その成立や当事者、内容についてできるだけ明確にさせようとの趣旨です。
 ただし、書面の表題(名称)や形式は特に問われません。「労働協約」といったタイトルは必ずしも必要なく、「賃金協定」や「議事確認書」「覚書」などのタイトルでも労働協約として問題なく成立します。またタイトルがなくても構いません。
 これに対し、口頭による合意や、署名または記名押印がない書面は、合意内容が明確であっても労働協約としての効力が認められません。ただし、使用者側が合理的理由もなく団体交渉で合意した内容について書面化を拒否している場合には、不当労働行為が問題になります。
 使用者側の回答書と組合側の受諾書などの往復文書、あるいは質疑応答書などのように、労使の合意内容が同一書面の中に記載されておらず、2つの文章を照合して初めて確認できるような場合の労働協約としての効力は、学説や裁判で見解が分かれています。労働組合法としても労働協約として想定する書面として認められないケースはあり得ますので注意が必要です。
 署名や記名押印によって表記されるのは、正式には当該協約の両当事者の名称と双方における協約締結権限を持っている者の名称が必要となります。例えば「A株式会社代表取締役B」「〇労働組合委員長▽」などが必要です。
 ただし、「A株式会社」「〇労働組合」などの名称のみでも差し支えありません。協約当事者が誰であるかが明確で、それが当事者のために署名または記名押印していることが明確であれば、要件を満たしています。

 

 ちば合同労組ニュース 第131号 2021年6月1日発行より