職場と労働法/高年齢労働者と労働災害

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高年齢労働者と労働災害

労災死亡の半数が60歳以上の労働者

 昨年2021年に労働災害で死亡した60歳以上の高齢者が360人に達し、労災死亡者全体(831人)の43・3%を占めたことが報じられました。過去最高の比率で4割を超えたのは初めてとのこと。
 工事現場などで、危険できつい仕事を担う高齢者が増えている現状があり、これに対する安全対策の遅れが背景にあります。
 労災死亡に占める高齢者の比率は2001年には22・7%でした。約20年間でほぼ倍増したことになります。高齢労働者の数自体も約1・5倍になっていますが、それを上回るペースで労災死亡が増えています。全世代の労災死亡は減少傾向にあるのですが、高齢者では大きく増加しているのです。
 産業別でみると、高齢者の労災死が最も多いのは建設業で112人。足場組み立て作業中の落下など墜落事故が多い。警備員の仕事で工事現場の誘導中に突っ込んできた車にはねられて死んだ例もあります。
 清掃やタクシードライバーの業種も高齢者の比率が高く、転倒や交通事故が目立ちます。さらに介護施設で新型コロナウィルスに感染して亡くなったケースもあります。

全就労者の21%

 20年前に約870万人だった60歳以上の高年齢労働者の数は、昨年には1430万人と1・6倍以上となり、全就労者の21%を占めています。高齢者の就職が難しいこともあって、建設業や運送業など危険できついとされる仕事が多い。また非正規雇用の割合は75%を超えています。 
 実際問題として、高齢者の方が、若年世代と比較して労災事故に遭いやすい。
 統計によると、労災は50歳から増加傾向があり、あきらかに他の年代層と比較して高い割合で発生しています。労災死亡の半数近くが50歳以上なのです。
 すべての労災事故のうち死傷者数がトップなのは転倒事故です。実に労災事故の4分の1が転倒です。
 特に高齢女性の転倒事故がかなり多く、高齢女性の転倒事故は、20歳代の16倍に上るとの指摘もあります。
 高齢男性で特徴的な労災事故は転落と墜落です。20歳代後半の男性の約4倍。建設現場で屋根から墜落したり、荷台から墜落する転落するケースが多い。逆に、挟まれ・巻き込まれ事故については、若年時と比較して顕著に増加することはないようです。
 高齢者は若年時と比較して視覚や聴覚が衰え、平衡感覚や運動能力も低下します。また短期的な記憶能力も落ちます(古いことはよく覚えているが、いまさっき聞いたことは忘れやすい)。
 筋力は意外に衰えませんが平衡性や敏捷性は低下します。躓いたりバランスを崩すことが多くなるのです。また高年齢者は、事故が発生しやすい上に重症化しやすい。

75%が非正規

 高年齢者であるだけではなく非正規の雇用形態で働いているため、十分な教育が行われず安全対策が適切に行われていないケースも多いようです。
 今年2月に、新潟県の製菓会社三幸製菓の工場で深夜に火災が発生し、60から70代の清掃アルバイトの女性たちが亡くなりました。
 この工場では、夜勤の非正規労働者に対して避難訓練をまったく実施しておらず、自動的に防火扉が下り、避難経路が分からず閉じ込められた形になったのです。〈正規と非正規の安全格差が浮き彫りに〉と報じられた。
 高齢労働者は、再雇用や再就職により、経験のない業種や業務、初めての就労場所や人間関係の中で働く機会も多い、この場合、特に丁寧な教育訓練などが必要になる。

組合の課題に

 まず加齢・高年齢化と労災災害に関する認識・対象化が必要です。これはすべての業種で言えることです。高年齢者の意見を反映させ、全世代の労働者が働きやすい職場をめざす必要があります。
 手元を明るくするなど照明環境の改善、騒音を減らして作業員同士の声や警報音などを聞き取りやすくする配慮、段差や扉溝をなくし階段に手すりを設置する。涼しい休憩場所の整備や通気性の良い服装などの熱中症対策など、作業環境の改善が必要です。
 作業方法についても、負担の大きい中腰での作業の解消、電動ジャッキの導入などによる人力運搬の解消など。また勤務形態や勤務時間を考慮する、健康状態の把握や体力の把握も必要となります。
 ネット検索でざっと調べただけですが、高年齢労働者の労災問題、就労環境について、厚生労働省や中央労働災害防止協会(中災防)の名前は出てくるが、労働組合の取り組みは弱い印象です。
 地域合同労組・ユニオンとして今後の重要な課題なのではと感じる。

 ちば合同労組ニュース 第145号 2022年8月1日発行より